JR東海が2027年の開業を目指すリニア中央新幹線をめぐり、リニア沿線の住民ら715名が工事の認可取り消しを求め、国を訴えていた裁判の最終弁論が開かれた。7月18日に判決が下される。
この日の弁論で、弁護団は、静岡のみならず、工事各所で事故が起きていると指摘。リニア新幹線は商用化の条件を満たしていないとして、認可取り消しをすべきだと主張した。また、原告の静岡県在住の森伸一さんと神奈川県川崎市の天野捷一さんが陳述に立ち、環境面・経済面でのリスクに懸念を表明した。
JR東海への不信感が募る住民たち
原告の森伸一さんは法廷で、静岡県北部を流れる大井川への工事の影響を懸念。「雨の少ないこの地区の農業復興に重要な役割をはたしているのが大井川用水です」「大井川の水はリニア建設工事により毎秒2トン減少するといわれています」と失う水量の多さが農産物の産出に及ぼす影響を訴えた。
また、神奈川県川崎市に住む天野捷一さんは「リニアの実現を国民が望んでいるとは思えません。リニアの採算性、どれだけの国民が実現を願っているのか肝心なことを推し量るマーケティング調査も世論調査もJR東海は一切やっていない」と述べたうえで、工事が遅れ、いつ開業できるのかわからないリニア工事に対し、「工事が延びれば延びるほどさらに建設費が積み上がります。将来国民が負担することになるでしょう。このようなリニア工事はただちにやめるべきではありませんか」と指摘した。
どこの工事も遅れている〜弁護団
「JR東海は静岡が遅れていると繰り返すが、どこも遅れている」
1時間半にも及んだ法廷の後、記者会見で語気を強めたのは弁護団事務局長の横山聡弁護士だ。未着工の静岡を除き、品川~名古屋間の各所で騒音・振動・日照・シールド工事の事故など、安全・環境・技術的問題が起きている現状を挙げ、JR東海が作成した環境影響評価書の杜撰さを指摘。「静岡での大井川水問題をめぐるやり取りからも、JR東海の提示する対策が具体性や継続性の面で、現実的な履行可能性に強い疑念が生じる」とリニア新幹線の商用化について疑問を呈した。さらに、「JR東海に聞いても”JR東海は大丈夫”の繰り返し。これでは信頼ではなく不信感が募るだけ」「2027年に開業なんて全く不可能」と、厳しく批判した。
昨年9月には裁判官が現地調査
この裁判をめぐっては、昨年9月に裁判官が山梨実験線沿線を視察し、沿線に住む住民らの生の声をきいた。原告団長の川村晃生さんは記者会見で、「実験線の被害が人的被害、騒音、振動、日照、自然への被害、水枯れ等がどんなものであるか。裁判官自身が身をもって体験したというのはこれからの判決を考える上でも役に立ったと思う」と評価した。