東京電力福島第一原発事故後に福島県で行われている「県民健康調査」の検討委員会が11月11日、福島市内で開かれ、新たに7人が甲状腺がんの疑いと診断された。1巡目で、甲状腺がんと診断されたのは345人となり、がん登録で把握された2018年までの集計外の患者43人をあわせると、事故当時、福島県内に居住していた子どもの甲状腺がんは、術後に良性だった一人を除き、387人となった。新たに手術を受けた人はいなかった。
今回の検討委員会で公表されたのは、5巡目、6巡目の甲状腺検査の結果。5巡目検査では、穿刺細胞診で新たに2人が悪性の疑いがあると診断され、48人となった。 前回の検査4回目の結果は、A判定が36人(A1が11人、A2が24人)、B判定が6人、未受診が6人だった。
また6巡目では5人が悪性疑いと診断され、11人となった。前回の検査結果は、A判定が6人(A1が2人、A2が4人)、B判定が2人、未受診が3人だった。
室月委員が「検査中止」を主張
今回、白熱したのは、来年4月から始まる、7巡目の甲状腺検査をめぐってだ。 これまで、学校での集団検診に異論を唱えてきた宮城県立こども病院産科科長の室月淳委員は、「今回の検討委員会の議題が来年度から始まる7巡目の甲状腺検査について承認を求めるのであれば、私ははっきりここで反対します」と主張。UNSCEAR報告書で、甲状腺がんが増えているのは、放射能の影響ではなく、検査による過剰診断だと結論づけているとして、一旦検査を止めて、過剰診断かどうかを検証すべきだと述べた。
これに対し、福島県の佐藤県民健康調査課長は、「福島県で原発事故が起が起きなければやられる必要のない検査をやっている」とした上で、「前回アンケートの調査でやった中で、放射線に対する不安があるという県民の方が多かった」と指摘。検査のデメリットもお知らせをして 丁寧に集中を図りながら対応して いきたい」と回答。また、検討委員会の重富秀一座長)も「原発事故に遭遇した福島県民の心を考えればここで中止するという選択はないとは思う」と発言。「7回目の実施計画はこれで進めていただきたいと思う」と反論した。
これに対し、中山委員がこの検討委員会の目的には、検査を中止することも含まれるのかと問い、「(検査を)評価するタイミングは金輪際こないのか。生涯継続するということを言っているのか」と食い下がり、さらに量子科学技術研究開発機構の熊谷敦史委員も、当初に決められた30年は、被曝についてよくわかって時期の話だとして、過剰診断やスクリーニングの比率を解析し、総括するよう求めた。
一方、甲状腺がんの専門家とも言える、国立病院機構東名古屋病院の今井常夫委員は、「私は逆の意見」だとした上で、「やはりこの県民健康調査は福島県の方がどう考えるかということ 非常に大事だと思っている」と反論。県民のアンケートでは、検査は続けてほしいという意見が圧倒的だったとして、県民の意見を尊重するよう求めた。また、福島県立医科大の志村浩己医師は、学校での集団検診も今は受診者が5割程度をなっているなどと説明。任意性は確保されていると説明。室月氏は、人数の割合は関係ないなどと主張したが、7巡目の検査は計画通り実施することと決まった。
220人の手術症例
このほか、検討委員会では、米国甲状腺学会の医学雑誌「 サイロイド誌」に掲載された論文について説明があった。福島医大で2021年までに手術を実施した手術症例220例の臨床病理所見を初めて報告。男女比は、男性85名で女性 135名(1:1.5)で、診断時年齢は中央値が18.6歳。手術時に確定した腫瘍径は、中央値が13.0ミリ。結節が複数認め悪れた症例は18名で これは8.2%だった。
術式は甲状腺全摘出が21例(9.5%)、甲状腺片葉切除術が199人( 90.5%)で、術前の画像診断をもとにしたリスク分類は、超低リスクが43人(19.5%)、低リスクが121人 (55%)、中リスクが47人( 20.5%)、高リスクが9人( 4.1%だった。
一方、病理検体を用いた術後診断では、 pT1aが47人、pT1bが126人、pT2が19人 、pT3aが15人、pT3bが7人、pT4aが5人だった。またリンパ節転移はpN0が45人 pN1aが144人 pN1bが30人だった。初回手術時に遠隔転移を認めた症例は4人だった。
病理によるがんの分類は、通常型の乳頭がんが205人(93.2%)、濾胞型乳頭がんが3人、充実型乳頭がんが2人、びまん性硬化型乳頭がんが2人、篩状モルラがんが4人、濾胞がん1人 低分化ガン1人、その他2人。また詳細な病理所見では、甲状腺外浸潤を認める症例が112人(51.1%)、血管内浸潤が108人(49.5%)、 リンパ管内浸潤が47人(21.7%)、リンパ節外浸潤が33人(15.1%)に認めた。
年齢の中央値18.6歳を境に、18.6歳未満と18.6歳以上の2群に分けて病理結果を比較したところ、統計学的に有意な違いはなかったという。