日本で30年以上暮らしながら、不法滞在で強制退去処分を受け、一時的に収容を解く仮放免となっていたパキスタン出身のモハメド・サディクさんに対し、法務省が「在留特別許可」を与えたことが23日、分かった。サディクさんは「付与された時、涙が出て止まらなかった」と喜びを口にした。
予想していない出来事だった。サディクさんは22日、月に一度の仮放免更新のため入管庁に出頭。そこでいつもより長い時間、理由も告げられず待合室で待たされた。「ひょっとしたら入管施設に収容されるかもしれない」と頭をよぎったが、別室に呼ばれ、その場で「在留特別許可」のカードが手渡されたという。
記者会見でサディクさんはビザが出なかった期間について「ツラいことはたくさんあった」「でも、諦めなかった」と時折なみだを浮かべながら語った。がんで闘病中の妻に電話で報告した際にも電話越しで涙ながらに喜びを分かち合ったという。
似たケースの当事者に特別在留許可を出すべき
裁判でサディクさんの代理人を務める指宿昭一弁護士によると、昨年12月の口頭弁論で、裁判長から国に対し「原告に在留許可を付与できませんか」と事実上の和解勧告が示されていたという。裁判を通して、特に裁判長が注目したのは、妻である中国人永住者との家族関係だった。妻はがん闘病中で、サディクさんが生活を支えてきたことを、裁判所は重くみた可能性がある。
サディクさんは、パキスタン国内で反政府運動をしてきた活動家。軍事政府に学生が殺害される事件が起きたことから、生命の危険を感じ、25歳のとき観光ビザで日本に入国した。ビザが切れたあとも在留し、2007年に中国人永住者と婚姻届けを提出した際に不法在留容疑で逮捕された。その後、退去強制令書が出され、2度にわたって入管施設に収容され、2010年からは仮放免の状況が続いていた。
在留特別許可を求めて法務大臣に対する再審の情願を計8度行ったが認められず、2度の訴訟を起こすもいずれも棄却され、3度目となる訴訟を2023年1月17日に提訴していた。今回の交付を受け、東京地裁で裁判中だった裁判は、訴えを取り下げる。