東京電力福島第一原発事故後に福島県で行われている「県民健康調査」の検討委員会が11月24日、福島市内で開かれ、新たな座長に、双葉厚生病院院長で、重富秀一双葉郡医師会副会長が就任した。また座長代理には、新妻産婦人科院長の新妻福島県医師会常任理事が就任した。
2巡目の報告書の結論などに対して、厳しい意見を突きつけてきた冨田哲福島大学法学部教授は退任し、後任には、杉浦弘一福島大学人間発達文化学類スポーツ健康科学コース准教授が就任した。これにより、委員の中に、法律の専門家はゼロとなった。
甲状腺がん疑い例は363人へ
今回、甲状腺検査について、新たにデータが公表されたのは5巡目と6巡目。5巡目で、新たに5人に甲状腺がんの疑いがあると公表され、悪性疑いと診断された子どもは321人となった。がん登録で把握された2018年末までの集計外の患者43人をあわせると、事故当時、福島県内に居住していた18歳以下の子どもの甲状腺がんは、術後に良性だった一人を除き363人となった。また、新たに1人が甲状腺がんの手術を受け、甲状腺がんと確定した。この結果、甲状腺がんと確定した人数は、261人となった。
甲状腺検査評価部会の報告書は了承されず?
この日、最も時間が割かれたのは、鈴木元甲状腺検査評価部長の報告だった。まず説明があったのは、甲状腺検査評価部会で示された1巡目から4巡目の横断的な症例対照研究について。続いて、7月28日に部会で検討した「甲状腺検査専攻検査から本格検査(検査4回目)までの結果に対する部会まとめ(部会まとめ)」に関する報告があり、症例対対照研究の結果、甲状腺がんの発見率と被ばく線量の間に「一貫した関係(線量・効果関係)は認められなかった」などとして、「甲状腺がんと放射線被ばくの間の関連は認められない」との結論を示した。
また、通常より多くがんが見つかっていることについて、「精密な超音波診断」の結果、「生命予後を脅かしたり症状をもたらしたりしないようながんを過剰に診断しているのか、将来的に症状をもたらすがんを早期に発見しているかのいずれか、または両方の可能性によるものである」と結論づけた。一方、県民の意向や子どもたちの長期の見守りなどを理由に、検査は継続するとした。
部会まとめ
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/603847.pdf
これに対して、中山富雄がん研究センターがん対策研究所検診研究部長は、公表されている症例対象研究の解析人数が示されていないとして、「統計の規模感を知りたい」と要望。また澁澤栄東京農工大学特任教授も、「サンプルサイズのないデータは、私から見ると、異様な図に見える」と指摘し、「この報告書を認めますかと言われたら、認めることはできない」と述べた。
終了後の記者会見では、これらを受け、「「部会まとめ」は了承されたのか」との質問が出たが、重富座長は、「これはあくまでも評価部会のまとめであって、これを受けて、検討委員会なりにまとめるべき」ものだと回答。「検討委員会が了承するようなものではない」との考えを示した。7月28日の甲状腺検査評価部会では、この報告書を修正した上で、検討委員会で了承を取り付けるとしていた。
若年の甲状腺がん患者、術後も病気で苦しんでいる〜甲状腺専門家
このほか、室月淳宮城県立こども病院産科科長が、「過剰診断や前倒し診断がなされているのであれば、大きなデメリットである」と主張。放射性の感受性高い世代の子ががんが見つかる年代になれば、さらに多数のがんが見つかってしまうなどとして、検査を中止するよう求めた。
これに対し、鈴木部会長は、甲状腺検査でがんと診断された子どものうち、4分の1は、遺伝子変異がある再発予後の悪い因子を持っていると回答。生命予後は悪くなくても、他臓器の転移や浸潤への影響を見極める必要があるなどと述べた。
また、内分泌外科学会の推薦で委員に就任している今井常夫東名古屋病院名誉院長は、10年〜20年後に手術が延びても予後は変わらないと主張する室月委員に、甲状腺外科として反論。「年間1万〜1万5000人の甲状腺がん患者のうち、死亡は10分の1にとどまるが、「9割の人がみんな健康かというとそうではなく、再発や転移などにより、病気で苦しむ患者は少なくない」と指摘。特に若い世代はそのようなケースが多いとした上で、「早期発見をして見つかれば、患者にとって良かったねというの話だと思う」と述べた。
がん登録症例の発見契機めぐり議論
また、がん登録のみで把握されたがんが、県民健康調査の検査で把握されたがんよりも、重症例が少ないことについても議論を呼んだ。中山委員と環境省の神ノ田昌博環境保健部長が、がん登録症例のがん発見契機について質問。福島医大でがん登録などを担当している安村誠司放射線医学県民健康管理センター長は、発見契機についてのデータは取得していないなどと説明した。
鈴木部会長は、リンパ節転移などの頻度などから、甲状腺検査によって見つかったがんが、がん登録で把握されたがんに比べ、「非常に早く摘出しているわけではない」と強調していた。
報告書に反対唱えていた祖父江氏が退任〜評価部会
今回の検討委員会では、改選を迎えた「甲状腺検査評価部会」の新たな委員の顔ぶれも公表された。それによると、評価部会の報告書に強く反対していた祖父江友孝大阪大学教授が退任した。「部会まとめ」の文言に変更はない代わりに、(ただし、一部の部会委員からは、解析手法の観点から、本結論について賛同は得られなかった」との一文が書き加えられた。
甲状腺検査評価部会の進行をめぐっては、設置要項の第1条に「病理、臨床、疫学等」を議論をするとされながら、これまで「病理」と「臨床」については、議論を避けてきた。これについて、終了後の記者会見で、重富座長は「当然、議論してもらいたい」と強調した。
資料
https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21045b/kenkocyosa-kentoiinkai-49.html