小泉純一郎氏ら首相経験者5人が先月27日、EU(欧州連合)欧州委員会に送った書簡の中に記載されていた、「多くの子供たちが甲状腺がんに苦しんでいる」という記述をめぐり、福島県の内堀雅雄知事が記者会見で遺憾の意を表明したことに対し、小児甲状腺がん患者の家族が知事の発言の撤回などを求め、抗議を申し入れた。
県に申し入れを行なったのは、福島県内の甲状腺がん患者の当事者と家族らの団体「甲状腺がん支援グループ紫陽花の会」。内堀知事が今月3日の記者会見で、「『多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しみ』という表現が含まれていた」ことに対し「遺憾である」と述べたことに対し、「「多くの子どもたちが甲状腺がんに苦し」んでいることは事実」「患者、ご家族が、県知事の発言を聞き、まさに自分たちの存在、苦悩が見捨てられたかのような絶望を感じ、憤る姿に押され、この抗議に至った」などと、県に対知事宛の抗議文を提出した。
申し入れ後に、子どもが甲状腺がんの手術を受けた母親らが記者会見を行い、「実際、何人も甲状腺がんになって、実際に苦しんでいる患者がいて、どうして遺憾なんだろう」と涙ながらに訴えた。母親の子供は、二回手術を受け、甲状腺は全摘し、今は、ホルモンを補充する薬を毎日服用している。母親は、「300人の子どもは少なくない」「もっと寄り添って欲しい」と知事の発言の撤回を求めた。
福島県知事 内堀 雅雄 殿
2022(令和4)年2月8日
甲状腺がん支援グループあじさいの
代表 牛山 元美
事務局長 千葉 親子
「令和4年2月3日の定例記者会見」に対しての抗議と質問書
「令和4年2月3日の県知事定例記者会見」を拝聴し、福島県民の小児甲状腺がん患者とご家族を支援してきた立場から、知事の発言に抗議いたしますと共に、質問させていただきます。
今般の知事記者会見の中で、5人の元首相経験者の「欧州委員会委員長あて書簡」に対し、知事は、「『多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しみ』という表現が含まれていた」ことに対し「遺憾である」と言われ、「県の専門家委員会で甲状腺がんと放射線被ばくの関連は認められないとする見解が示されており」「福島の復興のためには科学的知見に基づく客観的な情報を発信していただく」よう、県として書簡で申し入れをされたと、話されました。
今年1月18日の第18回甲状腺検査評価部会において、甲状腺検査で「悪性ないし悪性疑い」と判定された人は266人、うち手術を受けた222人中221人が甲状腺がんと診断確定したと報告されています。この他に、県が把握・発表していない小児甲状腺がん患者が数十名存在していることを知事はご存じのことと思います。
原発事故後の福島で小児甲状腺がんが「多発」していることは、2016(平成28)年3月の県民健康調査検討委員会中間とりまとめにも記載されています。
私たちは2016(平成28)年から、患者本人やご家族の支援活動を通し、彼らの悲しみ、苦悩、不安、生活の困難、県の制度利用のしにくさなどの声に耳を傾け、対処を求めて県に要望書などを提出してまいりました。
私たちが支援している患者さんの中には、中高校生でがんを宣告され、治療のため学業をあきらめた人、就職に影響した人もいます。手術後2,3年で癌が再発し、再手術、さらに放射性ヨウ素服用という心身共に負担の大きい治療を何度も受けている人、肺転移で命の危険を感じている人もいます。再発や転移の不安を抱え、まわりに気軽に相談もできず、孤立した生活を強いられているご家族が現実にいます。
「多くの子どもたちが甲状腺がんに苦し」んでいることは事実です。首相経験者たちによる欧州委員会への書簡に記された「多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しみ」という言葉に、なぜ県知事は「遺憾」と思われるのでしょうか。
原発後の甲状腺がんの多発に被ばくの影響を疑っている県民、国民は少なくありません。
原発事故による放射線被ばくと「関連なし」とする報告に対しては、検討委員会や甲状腺評価部会内でも異を唱える意見がありました。さらに被ばく線量、地域分け、検査間隔等複数の要因についてさらなる検討解析が必要と、2019(令和元)年6月の部会まとめにも記載されています。
現時点で、福島の小児甲状腺がんのすべてが原発事故による放射線被ばくと無関係であるとは断定できないことこそが科学的事実です。
科学的知見に基づく客観的な情報を発信するためには、正確な調査が必要ですが、県民健康調査は県内の小児甲状腺がん患者の実数、実態を正確に把握できていません。また、事故直後の被ばく線量を正確に大規模に測定しなかったことが、納得のいく科学的な説明が得られない現状を招いています。
多くの患者は、なぜ自分が甲状腺がんになったのか知りたいと考えています。原発事故と甲状腺がんの関係を明確に調べてほしい、と県に願っています。
県は、県民の健康を長期に見守るためにも、甲状腺検査で早期発見・早期治療の機会を確保し、甲状腺がん多発の原因解明に先頭となって取り組むべきです。
しかし、今般の県知事の発言は、県民の不安を押さえつけ、更なる県政・科学への不信を植え付け、特に甲状腺がん患者と家族を孤独に追いやるものです。
患者、ご家族が、県知事の発言を聞き、まさに自分たちの存在、苦悩が見捨てられたかのような絶望を感じ、憤る姿に押され、この抗議に至りました。
福島原発事故が起きたことで福島県のみにとどまらず東日本の広い国土が放射能汚染され、今も山林は汚染されたまま、いまだに帰還困難区域がなくならず、何万人もの県民が避難生活を強いられ、原子力緊急事態宣言が出されたままであることも紛れもない事実です。
その事実を認めず、被曝への不安を口にすることを封じて、事実を語ることに対して風評と非難するように仕向けているのが今の日本であり福島県ではないでしょうか。
知事の発言によって、甲状腺がん患者やご家族の不安や孤独感、絶望感が高まり、彼らに対する差別や偏見がより強まる可能性を深く理解された上で、下記の質問にお答えいただきたくお願い申し上げます。
2022(令和4)年2月18日までにご返答をお願いいたします。
尚、ご返答の有無、及びご返答の内容は、公表させていただきます。
記
質問1.福島原発事故後、多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しんでいることは事実ではない、とお考えでしょうか?
質問2. 元首相たちの欧州委員会への書簡の中で、科学的知見に基づく客観的な情報でない部分は具体的にどこでしょうか?
質問3.県民健康調査によって現時点までに確定している221人の甲状腺がんは「すべて放射線被ばくと関連なし」とお考えでしょうか?
質問4.福島に多くの小児甲状腺がん患者がいることを話題にすることは、福島の復興の妨げになりますか?
質問5.原発事故後に福島で見つけられた小児甲状腺がん患者に対して、県知事として励ましの言葉をいただけませんか?
以上