【世界のオルタナティブメディア】スティーブ・バクリー(イギリス)
世界117カ国にメンバーを持つ国際NGO、AMARC・世界コミュニティラジオ放送連盟の理事長スティーブ・バクリー氏が来日。コミュニティラジオにとどまらずコミュニティメディアを社会に位置づける運動を世界中で展開している彼の原点は、ラジオの“海賊放送”だと言う。
私がコミュニティメディアに関わるようになったのは、大学を卒業したすぐ後のことでした。海賊放送といって、必要な機材を揃え自分たちで放送を始めたことがきっかけです。最低限の装置で数千人にメッセージを伝えられるところに放送の可能性を感じ、仲間と一緒にCCR(Cambridge Community Radio)という放送局を立ち上げました。丘の上の木に送信機をくくり付け、ケンブリッジ市内に向けて音楽番組やインタビュー番組などを勝手に配信していました。「放送をやめなさい」と警告する黄色い車に何度も追われたことを覚えています。
その頃は80年代前半で、既にフランスやイタリアでは市民参加型のコミュニティラジオは大きな活躍をしていました。先進的な取り組みをしているこれらの国を参考に、私はイギリスでもコミュニティラジオの権利を位置づけるキャンペーンを始めましたが、法制化までは非常に長い道のりでした。電波を市民社会に開放することに後ろ向きだった当時の政権からは、大きな抵抗を受けました。97年以降やっと前向きな議論が始まり、20年かけて法制化を勝ち取ったのです。
現在、イギリスには200を超えるコミュニティラジオがあります。私が評議員を務めるSheffield Live!もそのひとつです。これは、私が住んでいるイギリス・シェフィールドの非営利のコミュニティラジオで、毎日19時間、インターネットとFMで多言語放送をしています。2年前に発足し、シェフィールドならではのローカルな文化や音楽、多様な情報を発信する役割を担っています。
世界を見渡したとき、コミュニティメディアを取り巻く状況は様々です。欧米だけでなくラテンアメリカにも、活発なコミュニティメディアは多く存在しています。また、アフリカでは民主化の動きとともに公共放送の独占がなくなり、商業放送と同じようにコミュニティメディアが育ってきました。他の地域と比較すると、オーストラリアを除くアジア太平洋地域は少し遅れていると言えますが、ここ10年で確実に進歩しています。日本にもコミュニティメディアの分野で重要な働きをしている人々がたくさんいますが、今後は法制度や仕組みを構築していくことが必要です。日本には豊かな放送の歴史があります。市民が運営し、誰もが発言できる公的なメディアを確立することは可能だと思っています。
コミュニティメディアの確立には、人々の声が必要です。人々がひとつになり、その必要性、ビジョンを明確にすることが非常に重要なのです。コミュニティメディアは人権のひとつであると言えます。今後は表現の自由の権利などを推進する活動にも力を入れていきたいです。
*スティーブさんのインタビューを配信中!
ContAct「コミュニティメディアは人権だ!」
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