福島第一原子力発電所事故により群馬県に避難した住民が国と東京電力を訴えた裁判の控訴審判決が21日、東京高等裁判所であった。足立哲裁判長は国の責任を認めた前橋地方裁判所の1審判決を取り消し、国の責任を否定した。
この裁判は、原発事故で福島県から群馬県に避難した37世帯91人が国と東京電力に精神的賠償などを求めたもの。2017年3月の前橋地裁の一審判決では全国の集団訴訟で初めて国と東京電力の責任を認めていた。
これに対し2審の判決は、津波の発生を予見できなかったとして一審の内容を棄却。2002年の国の「長期評価」による津波の予見は不可能だったとした上で、もし「長期評価」を前提に防潮堤などを設置したとしても津波による原発内の浸水は防げず、また建屋の水蜜化も十分な技術が確立していなかったとして、原発事故の発生を回避することはできなかったと指摘。「国の津波対策に関する対応に問題があったとまではいえない」と国の責任を認めなかった。
また東京電力についても、津波の予見したり、事故を回避することは難しかったとして、民法上の過失責任は認めなかった。
一方、東京電力については賠償責任があるとし、事故当時生まれていなかった原告1人をのぞく90人に対して、一審よりも多い約1億1900万円を賠償するよう命じた。一審より最も賠償額が増えたのは、帰還困難区域に隣接した居住制限区域の住民で、最高額は1500万円。一方、避難区域外の住民の中には、賠償額が減額されたケースもある。
鈴木克昌弁護団長は「国の責任が認められないということは、あの大きな災害が、原発事故が原発政策の中で起きたということを見過ごしている。こんな内輪の基準を優先するような、判断を続けていれば、再び原発事故が起こってしまう。このような判決は受け入れることができない。最高裁判所に上告し、さらに追及をしたい」と強く批判した。
いわき市から前橋市に避難した原告の丹治杉江さんは「まさかこんな判決が出るとは夢にも起こっていなかった。10年間は言葉にならない苦しみと悲しみを体験してきた。絶対に受け入れるわけにはいかない。」と言葉をつまらせた
原発事故による避難者らが国を訴えた集団訴訟の高裁判決は全国で2件目となる。昨年9月の仙台高裁判決では、国の責任を認めたのに対し、正反対の判断となった。来月19日には、同じく東京高裁で、千葉県に避難した住民の高裁判決が下される。