東京電力福島第一原発事故による健康影響などを議論する国際会議が、9月26日と27日の2日間、福島市で開かれ、国内外の専門家200人が参加した。
この会議は、チェルノブイリ原発事故で医療支援を行ってきた日本財団の主催で、原発事故が起きた2011年から毎毎年開催されており、今年で5回目となる。今回は、福島県で多発している甲状腺がんについて議論した。
参加したIAEA(国際原子力機関)やUNSCEAR(国連科学委員会)、WHO(世界保健機構)などの国際機関メンバーらは、福島原発事故では、事故によって放出された放射性ヨウ素の量がチェルノブイリ原発事故の10分の1であることなどから、「福島はチェルノブイリとは違う」と強調。福島県で実施されている小児甲状腺検査で多数のがんが見つかっていることについて、「過剰診断」が起きているとの指摘が相次いだ。
一方、福島の子どもの多くを執刀している福島医科大の鈴木眞一教授は、詳細な手術症例を報告。125例のうち4例を除く121例が、1センチ以上の腫瘍かまたはリンパ節転移があると説明し、「過剰診断」とはほど遠い治療実態を明らかにした。また、片葉を摘出した患者の中に、再発しているケースがあることも公の場で初めて認めた。
鈴木教授が今回、公表したのは、福島県民健康調査の甲状腺検査の結果、今年3月までに手術が行われた132例のうち、福島県立医大で手術で行われた125例(良性結節1例を除く)の手術症例。昨年8月に、96例の症例を公表していたので、新たに29例が追加されたことになる。男女比は、男性44例、女性81例で、男1:女性1.8。術式は、125例中、全てを摘出したのは4例のみで、残り121例は片葉(67例が右葉、53例が左葉)のみの摘出だった。
術後の病理診断によると、乳頭がんが121例(通常型が110例、濾胞型4例、びまん性硬化型3例、モルラ型4例)、低分化がんが3例*、その他が1例だった。
腫瘍の大きさは、10cm以下(T1a)が43例(34.4%)、1cm〜2cm(T1b)が31例(24.8%)、2cm〜4cm(T2)が2例(1.6%)、4cm超または甲状腺皮膜外浸潤(T3)が49例(39.2%)となっている。
リンパ節転移の状況は、転移ありが97例(77.6%)で、うち、中央部での転移となるN1aが76例(60.8%)、頚部に広がっての転移N1bが21例(16.8%)だった。一方、リンパ節転移なしは28人(22.8%)。がんが甲状腺の皮膜から外に広がる軽度甲状腺外浸潤(pEX1)は49例(39。2%)で、1cm以下でリンパ節転移もなく、甲状腺外浸潤や遠隔転移していないケースは、わずか5例であったという。
また今回はじめて遠隔転移3例について、性別や年齢が公表された。それによると、一人は、事故時16才、手術時19才の男性。術前診断ではT3(4cm超または甲状腺皮膜外浸潤)、pEx1(軽度甲状腺外浸潤)、リンパ節転移はNb1だったが、術後の診断では、T2(腫瘍径2cm〜4cm)でリンパ節手にはN1aと診断された。
別の患者は、事故時16才、手術時18才の男性で、術前はT3(4cm超または甲状腺皮膜外浸潤)、リンパ節転移状況はN1b。術後診断でも、T3N1bで、甲状腺外浸潤はなかった。
3人目は、事故時10才、手術時13才の女性で、術前診断ではT1b(腫瘍系1cm〜2cm)、リンパ節転移はN1b。術後診断結果は、T3(4cm超または甲状腺皮膜外浸潤)、pEx1(軽度甲状腺外浸潤)、リンパ節転移はN1bだった。
鈴木眞一教授は質疑の中で、手術後、再発している患者がいることを公式の場ではじめて述べ認めた。**また手術をまだ受けていない患者の腫瘍を観察した結果、大きさが縮小している例はなく、むしろ大きくなっていると述べた。さらに遠隔転移している患者について、日本ではアイソトープ治療について保守的な環境があると述べ、18才以下の子どもはアイソトープ治療を実施していないことを明らかにした。
検査のあり方提言へ
会議では、福島原発事故は、チェルノブイリ原発事故よりも被ばく線量が桁違いに低いため、がんの多発は起きないとの見方が強調される一方、フロアの一般参加者からは、事故当時のモニタリングが不十分だったことや、個人の被ばく線量が把握されていないなど問題が指摘され、激しく意見が対立する場面もあった。
主催する日本財団によると、会議の議論をもとに、福島県で実施されている甲状腺検査のあり方も含め、年度内に提言をまとめて、福島県に提出する。
*甲状腺がん診断規約の変更により、今年6月6日の福島県民健康調査検討委員会で、低分化がん3例のうち、2例が乳頭がんに分類されたが、今回は、以前の分類のままで報告されたと見られる。
**「再発数は?」との質問に対し、鈴木教授は具体的な数値は個人情報に関わるとして、明言を避け、「外国人が多い」との理由で「few」と回答した。鈴木教授は今年5月、OurPlanetTVの取材に対し、「複数の再手術が行われている」と回答している。