全国から支援者が詰め掛けた福島地方裁判所
福島県在住の小・中学生らが、年間1ミリシーベルトを下回る地域での教育を求めて、国や福島県、市町村を訴えている裁判(子ども脱被曝裁判)で14日、福島県立医科大学(福島医大)の鈴木眞一教授が証人尋問があり、検討委員会や学会等で報告してきた症例には含まれていない、新たな集計外が存在することが判明した。
今回の証人尋問は、福島県の甲状腺検査で多くの患者が集計から漏れていたり、「過剰診断」であるとの指摘が生じていることから、実態の解明を求めて原告側が要求したもの。当初は2日にわたる尋問日程が定時されていたが、被告の県がこれを拒否。このため、原告が書面で鈴木教授への質問を投げ、鈴木教授がこれに対する回答を作成するやり取りを経て、尋問当日を迎えた。
鈴木眞一証人尋問に至るまでに原告、被告側で交わされた意見書(原告弁護団のページ)
裁判所を出てホッとする鈴木眞一教授
新たな集計外ルートの存在、判明
焦点となったのは、福島県の検査結果から多数の患者が洩れている問題。鈴木教授が診察に通っているいわきの福島労災病院や会津中央病院でも甲状腺がん手術が行われていることを掴んだ原告側弁護団が、原発事故当時18才以下だった若年性甲状腺がんの手術について質問。何例実施したかと問いただしたのに対し、鈴木教授は回答を拒否。一方、「そこで行われた手術は検討委員会にあがっているか」との問いに対しては、「あがっていないと思う」と述べた。
福島県で実施している甲状腺検査結果をめぐっては、2017年3月、検討委員会に報告していない集計外症例が存在することが発覚し、批判をを受けた福島医大は翌年7月、福島医大で執刀した「集計外データ」のみを公表した。しかし、以前は把握できていた福島医大以外での手術数が、現在は把握できないなどと釈明。福島医大以外での手術数はまったく公表されなくなっていた。
しかし今回の尋問により、県立医大に所属する鈴木教授の手術でありながら、調査の枠外に置かれた「新たな集計外」の存在が判明。容易に把握できる手術数をも、集計から外している実態が浮き彫りとなった。
新たな集計外を明らかにした光前幸一弁護士
また手術した子どもの腫瘍の進行については、「手術までに何回もエコー検査をしているが、小さくなるケースはなく、時間とともに徐々に大きくなっている」と証言。11人が再手術を受けていうことについては、左右両方の甲状腺に腫瘍ができる「両側性」の患者が再手術に至っていると説明。原因として、医療被曝などの放射線被曝や遺伝性が考えられるとの見解を示した。
鈴木氏が提出した陳述書を手に、裁判を振り返る柳原敏夫弁護士
必要な手術としながらも、全国での検査は否定
原告側の弁護団長、井戸謙一弁護士が追及したのは、鈴木氏が陳述書で、がんが増えているのは「スクリーニング効果」であるとする主張だ。
がんの疫学分野を専門とする国立がん研究センターの津金昌一郎社会と健康研究センター長は2014年秋、これほど多くの小児甲状腺がんが見つかっているのは、「過剰診断」か「過剰発生」のいずれかしか考えられないと指摘。解析結果を福島県に提出している。しかし、鈴木氏は陳述書でも法廷でも、津金氏の指摘を否定。「過剰診断」でも「過剰発生」でもなく、超音波検査による「スクリーニング効果」であると主張した。
井戸弁護士はこれに対し、「福島県の子どもは全国の子どもの1.4%。福島県で行われた180例の手術が適切だとすると、全国ではその70倍の1万2000人を超える子どもに手術が必要となるはずだ」と指摘。「被曝の影響でないならば、全国の子どもを救うために、内分泌甲状腺外科学会理事長として対策を講じるべきではないか」と迫った。
すると、鈴木氏は言葉に窮しながらも、「リスクファクターがない地域の人たちに対して同様の検査をするには別の議論が必要だ」と反論。「福島県の場合は放射線被曝による空間線量が高く、健康影響へのリスクファクターがある」と特殊な事情があるとした上で、全国の検査をするかどうかは、福島県内の今後のデータが重要だとする考えを示した。
スクリーニング効果について追及した井戸謙一弁護団長
この日の裁判は普段、証人の後ろ姿しか見えない一般傍聴席で傍聴している福島県県民健康調査課の二階堂一広主幹兼副課長が国側の主任弁護士の隣、鈴木氏の顔が最もよく見える席に着席。鈴木氏は終始、県担当者の視線を受けながらの回答となった。
この裁判は、福島県内の子どもとその保護者が約170人が、国、県、市町村を訴えているもので、初期被曝の責任と被ばくをせず教育を受ける権利の確認の2つの内容が争われている。次回の期日は3月4日午後1時。原発事故当時、福島県の放射線リスクアドバイザーをしていた山下俊一福島医大副学長の証人尋問が行われる。