オリンピック
2019/12/16 - 09:06

国立競技場を初公開〜「負の遺産」回避可能か?

東京五輪・パラリンピックの目玉施設となる新国立競技場のお披露目が12月15日に行われた。安倍晋三首相や萩生田光一文部科学相らが竣工式に参加し、「アスリートを第一に(考えた)世界最高のユニバーサルデザイン、周辺環境との調和や日本らしさを兼ね備えたナショナルスタジアム」と繰り返し讃えた。

木材の暖かみ感じられる色合い
「周辺環境との調和」や「日本らしさ」を演出するために、全国から集めた木材を使用したことが大きな特徴とされる新国立競技場。スタジアム内に風を呼び込むための大きな庇(ひさし)には杉材が多用され、暖かみのある色合いが感じられる。

競技場の5階まで上がると、プランターが多数設置された外周路に出る。ここからは、新宿や渋谷のビル群、富士山などが迫力あるパノラマが一望できる。その名も「空の杜」。東京五輪の後は一般に開放する予定だという。車いすでも使えるトイレが数多く設置されるなど、ユニバーサルデザインに配慮した造りも特長だ。


5階の外周路「空の杜」

寒々としたスタジアム〜フィールドとの距離の遠さ実感
一歩スタジアムに入ると、その大きさに圧倒される。しかし、無機質なコンクリートと金属の空間が広がる。6万人以上を収容できる観客席の座席も、木漏れ日をイメージした配色だが、材質はプラスチック。冬の寒空の下で座ると冷たさが体に響く。

天然芝が敷き詰められたフィールドも観客席との間には陸上トラックが走り、距離を感じさせる。客席の上層階は傾斜角度を大きくしているため見やすくはあるが、サッカーやラグビーの専用競技場に比べるとスタジアムの一体感は遠く及ばない。球技を開催した時、とくにゴール裏からの距離が遠いのは否めない。


競技場内部

紆余曲折たどったが建築
ザハ・ハディド氏による当初のデザイン案が白紙撤回されるなど、紆余曲折を経て完成した新国立競技場。ザハ氏の設計が当初予定していた1300億円を大きく上回る2500億円になることが批判の的となったことから、競技場のコンセプトより、「安くまとめる」ことが優先された。

当初のデザイナ案にはあった可動式の客席や開閉式屋根の設置は見送られたため、フィールドと客席との距離感が縮まる見通しはない。また陸上トラックも、一度は五輪後の撤去が決まったが、その後に存続の話が浮上している。かといって、陸上競技の国際大会を開催する上で必須のサブトラックが併設されていないため、現状では限定された大会しかできない。陸上トラックを残した場合でも、なんとも中途半端な施設になっている。

陸上トラック

五輪後の「将来像」未定〜「負の遺産」回避できるのか
「屋根がなくても五輪後に使えるのか」「冷暖房がないままで熱中症対策は大丈夫か」「サッカー競技場にするのか、陸上でも使うのか。」様々な課題を先送りしたままの完成となったため、五輪後にどう活用するのかが、大きな課題だ。

前回の東京オリンピックのために建設された旧国立競技場は、数多くのスポーツ大会が実施される中で、50年をかけてスポーツの「聖地」としての地位を確立し、歴史的な建造物になっていった。しかし、新たにスクラップ&ビルドした新国立競技場は、建設費に1500億をかけたものの、活用計画スポーツ競技場としても、コンサートライブ会場としても使い勝手が悪すぎ、年間20億円以上にのぼるとされる維持費を回収するめどは立っていない。

木造であるため、五輪のシンボルである聖火台さえ設置できなかった国立競技場。「負の遺産」を回避するためのアイディアが果たして生まれるのだろうか


ライトアップされた国立競技場

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