被告人質問が始まり、大きな山場をむかえている東京電力旧経営陣の刑事裁判。2012年6月に、被告らを告訴告発した「福島原発告訴団」のメンバーは、武藤被告の証言を聞き、強い苛立ちと失望を露わにしている。
「福島原発告訴団」の団長・武藤類子さんは、「彼の質問への返答は、「記憶にありません」「報告を受けていません」「分かりません」の繰り返し。怒りを感じた。」と批判。また、刑事裁判支援団の団長・佐藤和良さんは「全体的に聞いて、傲慢な東電の体質は変わっていないなと感じた。武藤さんの証言で、大事故を起したことについて何の反省もしていなんだなと分かった。」と憤った。
さらに「全部他人に責任を押し付けていく。それで原子力という高度な注意義務が必要なプラントを動かしているということがはっきりした。これでは被害者が本当に浮かばれない。」延べ、必ず有罪判決を勝ち取りたいと語気を強めた。
メディアの撮影を拒否
被告人質問の初日となった16日。公判の2時間以上前から東京地方裁判所の前に、テレビ局のカメラクルーが並んだ。武藤被告ら3人の被告が地裁に入る様子を撮影するためだ。NHKに至っては、地裁の3つの出入り口全てにカメラクルーを出した。
新聞社やテレビ局が加盟する司法記者クラブは、東電元幹部の被告人質問に先立つ10月1日、被告らが裁判所に入る姿を撮影したいと、東京地裁に申し入れを行っていた。しかし、被告の弁護人から撮影を許可しないと回答したため、地裁は申し入れを拒否。敷地内での撮影はできなくなった。このため、映像が重要なテレビ局は、被告らの姿をカメラに収めようと敷地外の公道にカメラクルーを配置したのである。
それらしい車が次々に地裁の門の中に吸い込まれていくものの、どの車が被告の乗る車両が特定ができず、結局、公判が始まる10時になっても、その姿を捉えることはできなかった。
史上最悪の事故となった東京電力福島第一原子力発電所事故。今なお数万人がふるさとに帰れず、避難生活が続いているが、被告の姿を目にすることができるのはわずか100人程度の記者と傍聴者に限られたまま。マスコミは、昨年6月の初公判の写真や映像を使い続けている。