福島第一原発事故
2018/10/16 - 21:30

津波対策先送り「心外」〜東電・武藤元副社長

(公判後、会見に臨む被害者代理人)

東京電力福島第1原発事故で、旧経営陣3人が業務上過失致死傷の罪を問われて強制起訴された刑事裁判の30回目の公判が16日、東京地裁で開かれ、元副社長の武藤栄被告の尋問が行われた。

元副社長は冒頭で「言葉には言い表せないほどのご迷惑をおかけし、深くお詫び申し上げる」と深々と頭を下げた一方、過去の証人尋問で東電社員らが供述した内容をことごとく否定。「津波対策を先送りした」との指定弁護士側の主張について、「大変心外。先送りではまったくない」と激しく反発した。

「御前会議」は機関決定しないと全否定
津波対策が議論されていた2008年当時、原子力・立地本部副本部長だった武藤元副社長。当時、東電の土木グループでは、政府の地震調査研究推進本部が2002年に出した「長期評価」に基づき、津波対策を講じる必要があるのではないかと検討が進められいた。

当時、東電で地震対策や津波対応を担当していた新潟県中越沖地震対策センター所長の山下和彦センター所長の検察調書によると、2月の時点で、7・7メートルの津波が来襲すると、武藤被告らに報告したとされている。しかし、武藤被告は、説明はなかったときっぱり否定。非常用海水ポンプの囲いを作る検討をした事実は認めたが、津波対策でなく、物理的防護上のものだったなどを主張した。

また2008年2月の「中越沖対応打ち合わせ(通称、御前会議)」で、福島第一原発の津波対応について報告し、「長期評価」に基づく津波対策を講じる方針が了承されたとの供述内容についても「それはない」と激しく否定。「山下さんがなぜそんな供述をしたのかわからない」などと、山下氏の供述をことごとく否定した。

武藤被告は「御前会議」について、常務会や取締役会などとは性質が異なると説明。「対応の評価や中身を報告する会議」で「機関決定をする場ではない」と強調し、「2〜3月で方針が決まっていたということではない」と語気を強めた。

7月31日の大転換も否定
武藤被告はその後、6月10日に土木グループの社員らと打ち合わせを持ち、原発に「最大15.7メートル」の津波到達が予想されると報告を受けている。この報告について、武藤被告は「唐突感があった」と供述。その時初めて、「長期評価」について認識したが、「長期評価は信頼性がない。根拠がわからなかった」と述べた。


(2008年3月に東電設計が計算した津波水位シミュレーション結果)

また、沖合に防潮堤を建設する際の法的手続きなどを調べるように指示したのは、自分が知らないことを聞いただけと、対策工事が前提ではないと供述。7月31日の2回の打ち合わせで、武藤した「研究しよう」と発言し、土木学会に研究委託をしたことについて、「社としての方針は決まっておらず、変えていない。」と強調。「社内で議論しても答えは出ず、専門家の意見を踏まえるのが適切なプロセス」と手続きは妥当だったとの考えを示した。

これまでに公判で証人に立った社員らは、津波対策をする方向で取り組んでおり、7月31日の会議で、武藤元副社長が方針が一転させ、対策工事を先送りしたなどと供述していた。

公判後、被害者の代理人を務める弁護士らが記者会見した。弁護団長の河合弘之弁護士は「ようやくここまで来た、ある意味考え深い。今日の供述を聞いておもったのはある種の絶望感。この人がトップだったら、原発事故は防げなかったのなと思った。あの無責任ぶり」と怒りをあらわにした。

また海渡雄一弁護士は、「武藤さんは客観的事実、これまでの証拠調べで出て来た時筒をあまりに否定しすぎた。墓穴を掘ったんじゃないかなと。」と指摘。「客観的かつ知らなければならない事実を一切知らなかったと言い続けたということで、裁判所から見ると心証の悪い尋問になっているのではないか」との見方を示した。

武藤氏の被告人質問は明日17も行われ、検察側の反対尋問のほか、被害者代理人からの質問を行われる。このほか19日には武黒被告、30日には勝俣被告が質問に答える予定。

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