東京電力福島第一原発事故当時18歳以下だった約38万人を対象にした福島県の甲状腺検査のあり方や検査結果の評価を行う甲状腺評価部会の第10回目の会合が8日、福島市内で開催された。部会では県が公表してきた集計から漏れていたがん患者が少なくとも11人いることが、報告された。
検査を実施している福島医大によると、同大付属病院で2011年10月~17年6月に甲状腺がんの手術を受けた人を調べたところ、がんの手術を受けながら、集計から漏れていた患者が11人いた。このうち、検査を受けず、自覚症状などで医大を受診していた人が3人、2次検査の対象でありながら、受診していなかった人が1人、2次検査で経過観察と判断された人が7人だった。また7人のうち、5人は2次検査で穿刺吸引細胞診を実施していなかった人、2人は実施したが「悪性または悪性疑い」と診断されていなかったという。内訳は男性4人女性7人。事故当時0~4歳1人、5~9歳1人、10~14歳4人、15~19歳5人となっている。
前回、県が公表した甲状腺サポート事業結果で、集計外の患者が5人いることが明らかになったが、これらの患者がこの7人に含まれているかは調査していないため、わからないという。現在、福島県で甲状腺がんまたはその疑いと診断された患者は198人だったが、今回のデータを含めると少なくとも209人となり、そのうち、手術を受けて甲状腺がんと確定した患者は162人から、173人へと増えた。
昨年3月、小児甲状腺がん患者を経済支援する民間団体の指摘により、事故当時4歳児の患者を含め、集計漏れの患者が存在することが発覚し、検査を実施している福島医大が調査を行なっていた。
甲状腺スクリーニングのメリット・デメリットめぐり議論
検討委員会では、このほか福島県内の甲状腺スクリーニングを今後、継続するかどうかをめぐり、大阪大学の高野徹委員と神奈川県予防医学協会の吉田明委員が資料を提出し、意見を述べた。高野委員は、現在の「県民健康調査」の同意書について、検査を受けることに「健康上の利益があるように誤解させる文章になっている」と指摘。海外の論文でも、甲状腺の超音波検査は推奨されていないとして、「超音波検査を受けることで健康上の利益を得られるという証拠はなく、利益はあるとしても小さいことを明記すべきだ」と主張した。また、10代に甲状腺がんと診断された場合、「がん患者とみなされることによる様々な社会的・経済的不利益を被ることがある」と強調した。
高野委員・祖父江委員提出資料「県民健康調査における甲状腺超音波検査の倫理的問題点と改善案」
一方、吉田委員は、小児_若年層の甲状腺がん症例を分析した3つの論文を報告した。取り上げた論文は、甲状腺がんと治療実績が高い専門病院の野口病院(大分県)、隈病院(兵庫県)、伊藤病院(東京都)の3つの病院が、20歳未満または20歳以下の甲状腺がん患者100人超の患者の予後について、10数年から30年程度遡って調査したもの。いずれの論文も、術前にリンパ節転移や皮膜外浸潤があるものは、再発しやすいとしている。吉田委員は、早期に発見・治療することで、手術の合併症も低下し、再発予後が良くなると指摘した。
吉田委員提出資料「日本の若年者甲状腺癌乳頭癌の臨床像と臨床経過について」
その後、甲状腺スクリーニングのメリット・デメリットについて、全ての部会員から集めていた意見をもとに議論。鈴木元部会長は「別に部会の結論ではないが」と前置きした上で、日本では、海外と比べ、侵襲性の低い半葉切除が基本となっており、アイソトープ治療やホルモン補助療法も限定的であり、早期発見早期治療の副作用は少ないのではないかとの見方を示した。
甲状腺スクリーニングのメリット・デメリット等に関する部会員意見
記者会見
【配付資料】甲状腺検査評価部会(福島県)
http://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/kenkocyosa-kentoiinkai-b10.html