国の放射線審議会は19日、東京電力福島第1原発事故後に政府が除染基準としてきた1ミリシーベルトを1時間あたり0.23マイクロシーベルトと換算してきたことについて、見直しを前提とした検討に入ることを決めた。ガラスバッチなどを使用して個人の被ばく線量を実測した論文を集め検証する。
除染目標の見直しが持ちあがったのは、原子力規制委員会の更田豊志委員長の発言がきっかけ。更田委員長は1月17日の原子力規制委員会で、1時間当たり0.23マイクロシーベルトという値について、ガラスバッチで計測した個人線量と比較すると「4倍程度、保守的」と指摘。「改めないと帰還や復興を阻害する」と数値の見直しを提案していた。
放射線審議会では、更田委員長の発言を受け、個人線量などを調査した論文などを参考に、空間線量率と実際の被曝線量の関係をデータで示すなどとしている。具体的には2年前に、ふくしま国際医療科学センター健康増進センターの宮崎真副センター長や早野龍五東京大学名誉教授が公表した伊達市民の個人線量を分析した研究などが検討の対象となるという。
原子力規制庁の佐藤暁原子力規制企画課長は、「提言する以上は、具体的なアクションが必要だが、0・23という数字が一体いくつになるのか。その数字を示すのは難しいのではないか」との見方を示す一方、「相関関係の式によりある程度の幅で示す中で、尤度の高い、定性的な話に落ち着くのではなくのか。」と述べた。また予算などの兼ね合いから、ファントムを使ったような新たな調査は実施しないと述べた。
現存被ばく状況の参考レベルは示さず
放射線審議会ではこの日、国際放射線防護委員会(ICRP)の2007年勧告を国内法制に取り込む前提として議論を重ねてきた「放射線防護の基本的考え方」を決定。また「CRP2007年勧告」が国内制度にどのように取り入れられているかについて、調査結果を公表した。
放射線防護の基本的考え方の整理-放射線審議会における対応-
http://www.nsr.go.jp/data/000216278.pdf
ICRP2007 年勧告の国内制度等への取入れ状況について
http://www.nsr.go.jp/data/000216284.pdf
調査結果書では、2007年勧告に規定されている「女性の放射線業務従事者に対する線量限度、測定頻度」など、一部の項目で調査の必要性が示される一方、福島原発事故後、住民の被曝問題をめぐる大きな課題となっている「現存被ばく状況」については、「公衆の被ばく線量の低減に資する対策について各種の防護措置の取組が進められている。」と記載されるにとどまり、事務局の対応案は示されなかった。
事実上、公衆の被ばく線量の上限1ミリシーベルトの運用レベルとなってきた毎時0・23マイクロシーベルトを見直す議論の前提として、「現存被ばくの参考レベルを1ミリと設定したと解釈して構わないのか」との質問に対し、佐藤氏は「2007年勧告は別の問題」と説明。次回以降の放射線審議会において、福島原発事故後の各省庁の線量基準等の設定背景や数値について、調査結果を公表するが、参考レベルを決めるのは、経済産業省の原子力災害生活支援チームの仕事であり、放射線審議会ではないとの考えを示した。
法律を見直し、権限が強化された放射線審議会だが、各省庁への放射線防護の遵守より基準緩和の機能を果たしている。しかし、原発再稼働をめぐる議論に比べて、放射線防護に関する社会的な関心は低く、この日も傍聴者はわずか。省庁関係者が4人、研究者を含む一般市民が4人、報道関係者は3人の計11人だった。