福島県立医科大内に、甲状腺がんのアイソトープ治療(RI治療)を行える国内最大の入院病棟が完成した。病棟ができたのは、「ふくしま いのちと未来のメディカルセンター」の4階。遠隔転移した甲状腺がん患者の治療がはじまるのは年明けの1月からとなる。
周産期や白血病などの施設拡充
「ふくしま いのちと未来のメディカルセンター」は、福島第一原発事故を受け、福島県が復興計画に基づいて建設された「ふくしま国際医療科学センター」の施設のひとつ。11日に記念式典行われ、病棟が一般公開された。
同病棟には、従来の病棟から小児科や産科、救命救急センターなどが移転。23日から入院病棟が、26日から外来病棟がそれぞれ稼働する。1階は「災害医療・高度救命救急センター」、2階が「外来スペース」、3階が「総合周産期母子医療センター」、4階は「レディース病棟」「血液内科病棟」「RI病棟」、5階が「こども医療センター」が入居する。
5階の「こども医療センター」には、県内初となる小児集中治療室(PICU)が新設されたほか、3階「総合周産期母子医療センター」には、これまで9床だった新生児集中治療室(NICU)は15床に拡充された。
みらい棟のインテリアコンセプトは「キビタキの森」。淡いパステルカラーを基調にした棟内には、福島県の鳥、キビタキのデザインが至る所に配されている。安心して子を産み、育て、旅立っていくイメージを表しているという。
最上階6階・7階には、原発事故の健康影響を調べる「県民健康調査」のデータ管理などを行う「放射線医学県民健康管理センター」が入居し、12月上旬からすでに事業を始めている。これまで、福島市栄町にあった甲状腺超音波検査の拠点もこちらに移転した。
国内最大のアイソトープ病棟
同棟で特筆すべきなのが、新たに整備された「RI(アイソトープ)治療病棟」だ。病床数は、国内最大の9床をほこり、肺などに遠隔転移している甲状腺がんの治療を行う。
甲状腺の細胞は、甲状腺はヨウ素を取り込み、ホルモンを作る性質を持っているが、アイソトープ治療は、その性質を利用して行う治療法だ。具体的には、甲状腺がんが肺などに転移した患者が、放射性ヨウ素の含まれたカプセルを服用。がん化した甲状腺の細胞組織に敢えて内部被曝させることで、がんを破壊する。
この治療では、患者が100ミリキュリーを超えるような高濃度の放射性ヨウ素を内服するため、治療中、患者の身体から放射線が放出する。このため、医療従事者や第三者が被曝するのを避けるため、患者の線量が下がるまで、コンクリートや鉛で遮蔽された特別な部屋で過ごす必要がある。
部屋の広さは約15平米ほどで、窓から放射線が放出するのを防ぐため、窓ぎわにはコンクリートの遮蔽壁を設置。いったん入院すると外部と隔離されるため、医師や家族との面会は、テレビモニター越しに会話する「面会システム」を通じて行う。滞在中、患者はテレビとDVDが視聴可能で、DVDを扱えない小児が入院することを想定して、遠隔でDVDを操作できるシステムも導入した。
RI治療は、欧米の甲状腺がん治療では広く浸透しているが、運用が大変なことから、日本では年々病床数が減り、現在、全国で135床にまで減っている。一方、RI治療を必要とする進行性の甲状腺がん患者は増えており、年々、患者の待機期間が延びている。このため、福島医大のIR治療新設に期待の声は強い。
とはいえ、IR治療は、福島医科大にとってはまったく新領域。群馬大学や金沢大学から専門医を招聘し、1月から入院の受け入れを開始するものの、当面の間は1床のみの運用となる。この分野で実績のある金沢大学に看護師を派遣して研修を受けさせるなど、1年以上かけて準備を進めてきたが、複数のベッドを稼働するのは4月以降となる。
福島県内でRI治療ができる入院施設は、これまで白河総合厚生病院の1床しかなかった。このため、福島医大ではすでに多くの患者が治療を待っており、春までは予約で埋まっているという。
1階 災害医療・高度救命救急センター
2階 外来スペース
3階 総合周産期母子医療センター
4階 レディースフロア・RI治療病棟
5階 こども医療センター