運転停止中の関西電力・大飯原子力発電所3号機、4号機について、再稼働の前提となる「ストレステスト」を審査してきた原子力安全・保安院は、関西電力が提出した一次評価を「妥当だ」とする最終評価をまとめ、原子力安全委員会に報告した。
保安院の報告を受け、原子力安全委員会は、外部の専門家を含む検討会議を立ち上げ、保安院の審査の方法を検証することにしている。班目春樹委員長は、遅くとも、原子力規制庁が発足する4月1日よりも前に、検討を終える方針を示した。
保安院が、大飯原発3、4号機のストレステストに対し、保安院が「妥当」との最終評価をまとめたことに対し、保安院に設置されている専門家会議委員の井野博満東京大学名誉教授と後藤政志芝浦工業大学非常勤講師は、「こうした拙速なやり方は、 とうてい認めらない」として、保安院の対応に抗議する緊急声明を同日夜、発表した。
大飯原発の再稼働にあたっては、専門家の会議が審議していたが、市民の傍聴を認めずに審議を実施。また、委員が議論を継続するよう求めていたが、保安院は8日、委員の全ての質問に回答しないまま、一方的に審議を打ち切っていた。
<抗議声明全文>
2012年2月13日
関西電力大飯 3・4 号機ストレステスト審査書提出に抗議する緊急声明
ストレステスト意見聴取会委員 井野博満・後藤政志
原子力安全・保安院は、本日、関西電力大飯原発3・4号機の一次評価を「妥当」と する審査書を原子力安全委員会に提出しました。私たちは、このような拙速なやり方は、 とうてい認められません。
2 月 8 日の第8回意見聴取会では、様々な技術的な課題が残されていることが明らか になりました。原子力安全・保安院も、その場で議論を終了するとは明言しませんでし た。当然、継続審議となると思いました。審査書が原子力安全委員会に提出されたこと に対して意見聴取会の委員として抗議します。
ストレステスト意見聴取会では、徹底して議論を尽くすことが、国民に対する原子力 安全・保安院の責務です。次のような根本的な問題が残っています。
(1)判断基準について、保安院は「福島第一原子力発電所を襲ったような地震・津 波が来襲しても同原子力発電所のような状況にならないことを技術的に確認す る」としています。しかし、津波の想定は 11.4 メートルで、福島事故の 14 メー トルよりも低くなっています。そもそも、福島事故は収束しておらず、原因もわ からない状態です。
(2)評価の対象、基準の適用について以下の技術的な疑問があります。 1 制御棒の挿入性を検討の対象から外しています。 2 基礎ボルトなど機器の強度については、安全率を削って評価しています。 3 原子炉建屋などの構造強度に関わる許容値について、耐震バックチェックの基準より甘い許容値を適用することを認めています。 4 本来の設備は福島原発事故前から改善せず、消防車や非常発電装置などの外部仮設設備だけで安全だとしています。
(3)ストレステストは、過酷事故対策の検証を含めた二次評価と合わせて評価しな ければ、地域住民が安全性を判断する上では意味がありません。電力事業者は、 原子力安全・保安院の指示により、これを 2011 年末を目処に提出するはずでし たが、関西電力は二次評価結果を未だに提出していません。
原子力安全・保安院が、現時点で「妥当」としたことは、はじめに再稼働ありきの見 切り発車と言わざるを得ません。このような姿勢こそが、福島原発事故を招いた要因で す。このように原子力安全・保安院は、規制当局としての役割を十分に果たしていませ ん。まずすべきことは、自らのありようについて根本的な反省をすることです。
本日の審査書の提出は、「安全性に関する総合的評価」とされるストレステスト評価 の体をなしていません。