(国際会議について説明をする環境省の梅田珠実環境保健部長 2016年12月27日撮影)
190人もの子どもから甲状腺がんが見つかり、「過剰診断」なのか「過剰発生」なのかが議論となっている福島県の甲状腺検査。この検査を継続するかどうかの指標となる報告書をとりまとめる国際会議の費用を、環境省が全額負担することがわかった。同グループは来年3月まで2回の会合を開き、報告書を提出する。
環境省が実施するのは、「甲状腺モニタリングの長期戦略に関する国際専門家グループにおける検討支援」事業。「国際がん研究機関(IARC)」に設置される「原発事故後の甲状腺モニタリングの長期戦略に関する国際専門家グループ」に対し、281,700ユーロ(約3,500万円)を支出。委員の人選、委員招聘に関する事務、検討会の設置・運営、資料の作成及び委員に対する旅費・謝金など、会議の開催に伴う費用をすべて環境省が負担する。通常、国際機関への資金提供は、外務省のODA(政府開発援助)を通じて拠出されるが、今回は、国内の事業者に業務委託をした上で、再委任する例外的な措置がとられている。
「甲状腺モニタリングの長期戦略に関する国際専門家グループにおける検討支援委託業務」の仕様書より
国際専門家グループは、フランス4人、フィンランド1人 、米国3人、日本1人、韓国 1人、ドイツ 1 人、ウクライナ1人、英国1人、イタリア 1人、スイス 1人の計15人で構成され、来年3月までに会合を2回開催。原発事故に伴って放射線被曝を受けた住民に対し、長期にわたる甲状腺超音波検査を実施することが妥当かどうかについて、2つの報告書をまとめる予定だ。これらの報告書は来年12月までに、日本語に翻訳される予定だ。
なお、国際専門家グループは、今年10月末から11月上旬にかけて来日し、東京電力福島第一発電所および甲状腺検査会場、福島県立医大県民健康管理センターを視察。福島県三春町にある福島県環境創造センターで、国内の専門家と意見交換するという。
昨年12月に急浮上した「第三者機関」とは
国際専門家会議をめぐっては、昨年12月27日に開催された第25回検討委員会で、星座長が突如「第5回福島国際専門家会議から提言書が提出され、知事が受け取ったと報道されている」と切り出し、第三者的、中立的、国際的、科学的な立場の専門家が最新の科学的知見をレビューする場が必要がある」と「科学的、国際的、中立的な」国際会議の設置を提案。委員の意見を反映しないまま、福島県へ対し設置を検討するようボールを投げていた。
これを受けて県は、今年2月20日の第26回検討委員会で、「国と相談しながら、検討委員会とは別の独立した機関の設置を検討する」と説明。春日文子委員から、評価部会の中で、必要に応じて専門家を招聘すべきではないかとの対案が出されたほか、清水修二委員も「第三者委員会の設置を要望する」というのは反対であると述べていた。
そして今月5日、第27回の検討委員会で、県や国が直接、国際会議を開催することは見送り、IARCが検討を行うとの報告があった。環境省の梅田環境保健局長は、「IARCが甲状腺モニタリングに関する国際専門家グループを開催する意向を持っていることがわかった」として、環境省として「この国際専門家グループに賛同して、支援していく」と説明していた。
国際がん研究機関(IARC)の「環境と放射線部門」の副部門長アスウェル・ケスメニアン博士は、日本の放射線影響研究所にも在籍した経験があり、ICRPの委員でもある。9月に開催された日本財団主催の「第 5 回放射線と健康についての福島国際専門家会議」にも出席し、提言書に名前を連ねている。
甲状腺モニタリングの長期戦略に関する国際専門家グループにおける検討支援委託業務
http://www.env.go.jp/kanbo/chotatsu/20170607_97183.html
国際がん研究機関(IARC)環境と放射線部門
https://www.iarc.fr/en/research-groups/sec6/index.php
アスウェル・ケスメニアン博士
https://www.iarc.fr/en/staffdirectory/displaystaff.php?id=20039
第 5 回放射線と健康についての福島国際専門家会議
http://www.nippon-foundation.or.jp/news/pr/2016/img/132/1.pdf