議事録がなかったことが問題となった原子力災害対策本部。OurPlanetTVでは、去年10月、「原子力災害対策本部は保安院?~実態なく、違法状態か!?」という記事で、事務局体制について問題提起した。あれから半年、今度は情報公開の場面でも、大きな課題があることが明らかとなった。
原子力災害対策本部の情報公開窓口はどこか
OurPlanetTVは、1月25日、原発事故に伴う政府の「避難指示」や「避難基準」がどのように決定されたのか、その経緯を知るために、原子力災害対策本部に情報公開請求を行った。現在、「避難」などの問題を所管している部署は、内閣府原子力災害対策本部の住民支援チームである。去年10月の記事のとおり、原子力災害対策本部は、官報によると、官邸に設置されている。しかし、官邸で行われるのは、閣僚が出席する「原子力災害対策本部」の会議体のみ。事務局は「経済産業省緊急時対応センター(ERC)」に置かれており、住民支援チームは、経済産業省の2階に入居している。
私たちは当初、原子力災害対策本部の事務局がある経済産業省の情報公開窓口に、情報公開を請求した。(2011年12月6日)というのも、これまでに取材経過から、官邸に内閣官房広報に問い合わせても、原子力災害対策本部に関する内容について、全くわからないの一点張りで、一切答えてくれなかったからだ。しかし、数日後、経済産業省の担当から請求文書が戻って来た。私たちの請求している「行政文書を保有している」のは「内閣府(原子力災害現地対策本部)」であるとして、内閣に送付するように書かれていた。そこで、私たちは年が明けた今年1月25日、改めて内閣府あてに情報公開請求を行った。
※1 経済産業省からの文書
結局、文書があるのは経済産業省内
私たちが請求を行ってから1ヶ月ほど経った2月22日、原子力災害対策本部住民支援チームのSさんから電話が来た。電話の内容は、私の記載した言葉の確認などであった。私はこの電話で、「避難決定や基準に関するプロセスを示すもの」を入手したい旨伝えた。Sさんは、確認すると、改めて、ファックスでも、その確認した内容を返送してきた。
そろそろ開示に近いのだろう。私たちはそう思って待っていたが、2日後の2月24日に、Sさんから再び電話があり、1週間ほど待って欲しいとの連絡が入った。情報公開は法律で、1ヶ月以内に開示することが義務づけられている。1週間遅れるとなると、その理由を示し、請求者に了解を得た上で延長しなければならない。Sさんは、文書の特定に時間がかかっているが、1週間以内には開示できるので、「開示決定の延期を」を了解して欲しいという。私は、きちんとした文書ができるのであれば、1週間程度なら構わないと延期を了解した。
1ヶ月以上遅れで、開示が決定
しかし、その後、1週間経っても2週間経っても連絡がない。そこで、私たちは改めてS氏に電話をし、情報公開の進捗状況を聞いた。しかし、文書が多くて特定に時間がかかっているとの返事が続き、開示の見通しはなかなか明らかにしてくれない。3月23日が延長期限に近づいても連絡がないため、更に催促の電話をすると、今度は、概ね文書の特定は出来が、実務的な手続きが終わっていないとの回答だった。
結局、「行政文書開示決定通知」が届いたのは4月1日だった。書類の作成日は、延長期限の3月23となっている。郵便の消印は3月28日だ。
情報公開の交付を受ける場所がわからない
「行政文書開示決定通知」の決定内容は「全面公開」。文書数は1772枚あり、閲覧には1500円、複写の交付には16920円かかると書かれていた。
そこで、早速、交付を受ける日時を指定するために、内閣府の情報公開窓口に電話をした。
文書に書かれていた交付窓口の住所として、東京都千代田区永田町1−6−1内閣府大臣官房総務課情報公開窓口と書かれていたからだ。しかし、この窓口に電話すると、原子力災害対策本部の詳報公開については何も分からないという。
私たちは次に、「原子力被災者支援担当室」に電話を入れた。すると、原子力災害対策本部関連の情報公開を一手に扱っているAさんが出て来た。これまでは、Sさんとやりやり取りしてきたが、Sさんは情報公開担当者ではなかったのだ。
Aさんに日時を指定すると「どこで交付しましょうか」と聞いてくる。「内閣府じゃないのか?」と思いつつも、「どこでも構いません」と返答すると、「経産省内のほうが便利なのでそちらでどうか」という。結局、経産省2階の住民支援チームで交付を受けることとなった。どうも不可思議だ。
16920円を支払って公開された文書は、全て公表済み文書だった!
開示された書類は1772枚。当初は閲覧してから、コピーをしようと思っていたものの、長時間、文書を閲覧している時間がないと判断し、複写の交付を受けることにした。
ところがである。わざわざ16920円支払って公開された文書は、既にホームページに公開済みの文書だけだった。議事録がないとして問題となった例の「原子力災害対策本部」議事録(再現版)のみだけだったのである。この議事録(再現版)が、政府のホームページに掲載されたのは3月6日。私たちに対して情報公開が通知されるよりも20日も早い。また、本来入手を希望していた「原子力災害現地対策本部」の会議録をはじめ、「避難」に関する意思決定をした経過がわかるような文書については、「開示・非開示」の決定さえ出されていない状態だった。
電話でSさんに、「交付を受けた文書は、既に公開済みの文書だけですよね!?知っていて、何も言わなかったのですか?現地対策本部や実務者会議の議事録等があるはずでしょ?」と問うと、「それは今回、出さないことにした」と、信じられない言葉が返って来た。もし出さないと決定したならば、「非開示」の通知を出し、その理由を説明しなければなならい。
去年、12月に経済産業省から送付されて来た文書(※1)でも触れられているとおり、私の請求の中に、原子力災害対策現地対策本部の文書が含まれていることは、誰が読んでもわかる。
請求から2ヶ月以上待たせて、既に公開済みの文書を交付し、16920円を支払わせるというのはほとんど詐欺行為である。情報公開をする際、既に公開済みの文書がある場合は、役所側が、その旨を知らせるのが通例だ。ましてや、今回のように枚数が多く、金額が大きい場合は、なおさらのことである。
ちなみに、「行政文書開示決定通知」には、情報公開請求を受理した日付が、2月24日と記載されていた。この2月24日という日は、情報公開の延期通知の日である。受理された日は、1月25日だ。これも、意図的に書き換えた可能性も否めない。
原子力災害対策本部は本当に機能しているか?
JCO事故の教訓によって法制化された「原子力災害対策特別措置法」。情報の一元化をし、指揮命令系統や責任の所在を明らかにするために、原子力災害対策本部は設置されているはずである。しかし、今回の情報公開でわかったことは、去年3月に起きていた官邸と経済産業省のちぐはぐ、すなわち、原子力災害対策本部が1年を経てもなお、正常に機能していないことを露呈している。
内閣府という冠がつきながらも、事実上、経済産業省と一体化している「住民支援チーム」は原子力災害対策本部住民支援チームや原子力災害現地対策本部住民支援班は、被災者の避難や医療を担当する重要な部署である。しかし、これまで、避難や医療に関する政策決定のプロセスはほとんど明らかになっていない。
しかも、現段階においても、情報公開請求に対して、このような不誠実な態度をとることに、驚くばかりである。しかるに、法律から考えれば、この情報公開の責任は官邸にある。今回の情報公開は請求先も、交付元も形式上は、内閣府官房政策統括官(防災担当)原田保夫氏。果たして内閣官房側は、こうした情報公開の実態を把握しているのだろうか。
OurPlanetTVでは、現在、この情報公開が不当なものであるとして審査請求を行い、支払った費用の返還を求めている。万が一、費用の返還が行われなかった場合は、監督庁のトップである野田総理個人に賠償請求することも検討している。
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