新国立競技場のデザインを決める国際コンペで審査委員長を務めた建築家の安藤忠雄氏が16日、東京都内で記者会見を開いた。安藤氏が強く推して選んばれたザハ氏のデザイン。しかし、2520億円という高額な工事費が示されていることについては、「選んだ責任はあるが、なぜ2520億円になったのか私も聞きたい」と述べ、自らの責任は否定した。
安藤氏は、2520億円という建設計画が提示された7月7日の有識者会議を欠席。その後、建設計画見直しを求める報道や世論が高まる中、初めて公の場で発言した。安藤氏は7日に大阪で講演が入っていたなどと釈明。その上で、自分たちが担ったのはデザインの選定案までで、選考時に「1300億円」の予算が示されていたと強調。「2520億円になった理由は私も聞きたい。総理大臣じゃないので、私が決めたわけではない。国民の一人として下がらないかなと思う」など自身の責任を否定した。
当時、費用面の検討が不十分だったのではないかという点については「公募要項の条件が工費1300億円だった。私はこんな大きなもん作ったことはないですからね。そんなもんかなと思いました」と釈明した。
ザハ・デザインは必須
新競技場のデザインを決める国際コンペが開催されたのは、2012年7月~11月までの5ヶ月間。東京五輪の招致を有利にしようと国際コンペが企画され、非常に短期間で公募と選定が実施された。審査委員会の最終選考は激論になったが、審査委員長を務めた安藤氏がイラク出身の建築家ザハ・ハディド氏の案を強く推し、最終的に同案が選ばれた。
安藤氏は、ザハ氏の案を「非常にダイナミックで斬新なデザイン。五輪招致に勝ってほしいという気持ちであの案を選んだ」と改めて高く評価。今後の展開についても、「ザハさんという人間を選んだ。国際公約として人は外せない。と述べ、引き続きザハ氏のデザインを生かした現行計画をもとに、費用を削減する方策を検討すべきだと述べた。
誰が責任者か
自身の責任を否定した安藤氏。では誰の責任なのか。安藤氏は、「2520億円かかるというのを聞いた時に、私ええーっと思いました。審査委員長というよりは1人の国民としてそう思う。」と発言。「なんでこうなったのか。私も聞きたい。」と述べ、「私が決めたんじゃない。私総理大臣じゃない。」と強調した。
そして下村文部大臣なのか、誰がリーダーかわからないとの質問には「リーダーシップはいりますね。リーダーはどなたかな。文部大臣なのか、総理大臣なのか。わたしが決められるわけではない。」と答えた。
下村門下大臣は7月10日の記者会見で、「1300億円がどの程度、デザインをする人たちに伝わっていたのか。値段とデザインを別々にしていたとしたらずさん。」と、デザインの選考過程を批判していた。
新国立競技場の改築について、国際デザイン競技審査委員長として、ザハ・ハディド氏の提案を選んだ審査の経緯をここに記します。
老朽化した国立競技場の改築計画は、国家プロジェクトとしてスタートしました。「1300億円の予算」、「神宮外苑の敷地」、オリンピック開催に求められる「80,000人の収容規模」、スポーツに加えコンサートなどの文化イベントを可能とする「可動屋根」といった、これまでのオリンピックスタジアムにはない複雑な要求が前提条件としてありました。さらに2019年ラグビーワールドカップを見据えたタイトなスケジュールが求められました。
その基本デザインのアイディア選定は、2020年オリンピック・パラリンピックの招致のためのアピールになるよう、世界に開かれた日本のイメージを発信する国際デザイン競技として行うことが、2012年7月に決まりました。
2013年1月のオリンピック招致ファイル提出に間に合わせるため、短い準備期間での国際デザイン競技開催となり、参加資格は国家プロジェクトを遂行可能な実績のある建築家になりましたが、世界から46作品が集まりました。
デザイン競技の審査は、10名の審査委員による審査委員会を組織して行われ、歴史・都市計画・建築計画・設備計画・構造計画といった建築の専門分野の方々と、スポーツ利用、文化利用に係る方々、国際デザイン競技の主催者である日本スポーツ振興センターの代表者が参加し、私が審査委員長を務めました。グローバルな視点の審査委員として、世界的に著名で実績がある海外の建築家2名も参加しました。
まず始めに、審査委員会の下に設けられた10名の建築分野の専門家からなる技術調査委員会で、機能性、環境配慮、構造計画、事業費等について、実現可能性を検証しました。その後、二段階の審査で、デザイン競技の要件であった未来を示すデザイン性、技術的なチャレンジ、スポーツ・イベントの際の機能性、施設建設の実現性等の観点から詳細に渡り議論を行いました。2012年11月の二次審査では、審査員による投票を行いました。上位作品については票が分かれ、最後まで激しい議論が交わされました。その結果、委員会の総意として、ザハ・ハディド氏の案が選ばれました。
審査で選ばれたザハ・ハディド氏の提案は、スポーツの躍動感を思わせる、流線型の斬新なデザインでした。極めてインパクトのある形態ですが、背後には構造と内部の空間表現の見事な一致があり、都市空間とのつながりにおいても、シンプルで力強いアイディアが示されていました。とりわけ大胆な建築構造がそのまま表れたアリーナ空間の高揚感、臨場感、一体感は際立ったものがありました。
一方で、ザハ・ハディド氏の案にはいくつかの課題がありました。技術的な難しさについては、日本の技術力を結集することにより実現できるものと考えられました。コストについては、ザハ・ハディド氏と日本の設計チームによる次の設計段階で、調整が可能なものと考えられました。
最終的に、世界に日本の先進性を発信し、優れた日本の技術をアピールできるデザインを高く評価し、ザハ・ハディド案を最優秀賞にする結論に達しました。実際、その力強いデザインは、2020年オリンピック・パラリンピック招致において原動力の一つとなりました。
国際デザイン競技審査委員会の実質的な関わりはここで終了し、設計チームによる作業に移行しました。
発注者である日本スポーツ振興センターのもと、技術提案プロポーザルによって日建設計・日本設計・梓設計・アラップが設計チームとして選ばれました。2013年6月に設計作業が始まり、あらゆる課題について検討が行われ、2014年5月に基本設計まで完了しました。この時点で、当初のデザイン競技時の予算1300億円に対し、基本設計に基づく概算工事費は1625億円と発表されました。この額ならばさらに実施設計段階でコストを抑える調整を行っていくことで実現可能と認識しました。
基本設計により1625億円で実現可能だとの工事費が提出され、事業者による確認がなされた後、消費税増税と物価上昇にともなう工事費の上昇分は理解できますが、それ以外の大幅なコストアップにつながった項目の詳細について、また、基本設計以降の実施設計における設計プロセスについては承知しておりません。更なる説明が求められていると思います。
そして発注者である日本スポーツ振興センターの強いリーダーシップのもと、設計チーム、建設チームが、さらなる知恵を可能な限り出し合い一丸となって取り組むことで、最善の結果が導かれ、未来に受け継がれるべき新国立競技場が完成することを切に願っています。
2015年7月16日
新国立競技場基本構想国際デザイン競技
審査委員長 安藤忠雄