小児甲状腺がん
2014/09/21 - 15:23

福島県外の健診めぐり激論〜環境省専門家会議

原発事故に伴う住民の健康調査に関して検討している専門家会議が22日、開催され、福島県外での健康影響に関して初めて議論が行われた。また、環境省の事務局が提示した「論点整理」をめぐり、「放射線による影響」をどう捉えるかについても議論が白熱した。

当初は今年度初めには結論を出すとされていた「原発事故に伴う住民の健康管理のあり方を検討する専門家会議」。第11回目となる会合ではまず、保健師と精神保健の専門家が招かれ、健康不安やリスクコミュニケーションに関するヒヤリングや質疑が行われた。

東京大学の川上憲人教授は、住民の健康不安に関する研究成果を紹介。避難していない福島県の一般住民を調べた結果、特に浜通り、中通りの住民の間で、心身の不調、放射線スト レス、震災後の活動の低下が大きくなっていたとした上で、住民同士で集まり、語り合うことがストレス緩和や心身の不調の改善につながると報告した。一方、福島市の保健師・大久保淳子さんは、放射線が降下した環境の中での子育ては前例がなく、お母さんの間で強い育児不安があることを説明。「避難地区ではないということが大きなポイント。避難しなくてもいいと言われても、不安がある」などと述べた。

「放射線影響」と「事故影響」で意見二分
この後、事務局が新たに作成した「論点整理」を提示。長瀧重信座長が委員から意見を求めたところ、事務局が作成した論点整理の枠組みについて異論が殺到し、具体的な中身にまで検討は至らなかった。

事務局が提示した「論点整理」は以下の4つ点だ。
【論点1】 事故による放射線の健康への影響が見込まれる疾患について
【論点2】 福島県における対応の方向性
【論点3】 福島近隣県における対応の方向性
【論点4】 健康不安について

福島県立医科大の阿部正文副学長は、原発事故による放射線の直接的な影響だけではなく、そこから派生する様々な問題も含めて議論すべきと主張。また、日本医師会の石川広巳常任理事は、放射線の影響による健康不安が生じているとして、精神的な不安も論点1に加えるべきだと要望した。

一方、国際医療福祉大学クリニックの鈴木元院長は、「放射線由来の健康影響」と「放射線以外の災害に伴う健康影響」として2つの項目を立て、後者の対策として「健康不安」を入れるべきだとした。

これに対し、環境省の得津馨参事官は「環境省だけでは解決できないので、どうしていくか考えてきたい。」と回答。また長瀧座長も「放射線に起因する疾患というのは、60年にわたって原爆で色々と議論されてきた。「放射線による」という言葉を、この委員会でどう考えていくかは大きな問題」だとして結論を先送りした。

福島県外の健康支援
後半は初めて、福島県外の健康管理や健診について議論が行われた。口火を切ったのはこれまで、福島県外の健診を求めてきた石川委員。千葉県内に複数のホットスポットがあるとした上で、不安を抱えている保護者の要望にそって、希望者に対する健診を行う体制を整備すべきだと主張した。

これに対し、京都医療科学大学の遠藤啓吾学長が異論を表明。近隣県は福島県よりも放射線量が少ないとした上で、「甲状腺がんについては、福島県で何か影響が出てからでも対策が遅れることはない」と主張した。また大阪大学の祖父江友孝教授も「不利益が利益を上回るために、受けない方がいいと判断されているがん検診がある」と述べ、「単に希望者の方に受けていただくというのは責任のある行為とは思えない。」と反対した。また東北大学の中村尚司名誉教授も、健診よりはカウンセリングが必要だとの持論を展開した。

一方、検診に賛成したのは、筑波大学保健医療政策分野の大久保一郎教授や日本学術会議の春日文子副会長ら。不安を抱える住民がいる以上、希望者に検診の機会を提供するのは行政の仕事であると反論。阿部委員も、何らかの対策をする必要があるとして、むしろそのやり方が重要であると提言した。

県外の検診に国が責任を持つべきか
福島県外でも、希望者に対しては検診すべきとの意見が優勢となる中、再び鈴木委員が再び発言。「自治体での検診は、選挙の公約で実現したものが多い」政治的なものであると指摘。国の予算による検診に異論を唱えた。すると石川委員が反発。「住民の不安に対し、前向きに向かい合うべきだということを結論として出すなら、国に要求してもいいと思う。なぜならば、国策として進めてきた原子力発電所による事故だからです」と反論した。

この後、日本原子力研究機構の本間俊充センター長も福島県内と県外を分けている状況を批判。線量評価について「UNSCEARは平均だし、幅があると言っている。また県内よりも高い地域がある」とした上で、福島県民健康調査に国が助成している以上、他の地域でどの程度の行政支援が出来るのかを議論すべきだとした。

福島原発事故の健康影響をめぐり本質的な議論
会議の終わりに、春日委員が、専門家会議の名称に触れ、放射線による健康管理を論じるのではなく、「原発事故に伴う住民の健康管理」について、本来はカバーすべきなのはもっと広い領域ではないかと問題提起し、長瀧座長に対して「もう少し丁寧なまとめをしていただきたい」と注文をつけた。

長瀧座長は会議の設置目的は、子ども被災者支援法の13条であると主張。「放射線によるということが一番最初に書いてある」として、そこに限定すべきと述べた。こうした論点整理については、次回会議の10月20日までに事務局がまとめることとしている。

配布資料
http://www.env.go.jp/chemi/rhm/conf/conf01-11.html

<解説・放射線起因性と健康影響>
第2次大戦中、日本は全国で米軍の空襲を受け、多くの国民が被害を被った。しかし戦後、日本軍の軍人・軍属以外の国民は、国家賠償や支援策を一切受けていない。しかし、唯一、例外的に広島と長崎の原爆で被害を受けた被災者が国からの国の援護政策を受けている。このため、他の空襲との被害を区別するために、日本の原爆症認定は、放射線に起因するかどうか(放射線起因性)の判断が厳格に行われてきた。原爆を受けたことに伴う健康診断を受けることのできる被爆者(被爆者健康手帳所持者)のは今年の3月31日現在、全国で19万2,719人で、原爆症認定を受けて医療特別手当を受けている人の数は8,793人にとどまる。

一方、チェルノブイリ事故においては、広く国民を救済する「チェルノブイリ法」が1991年に成立し、直後に独立したウクライナでは、避難者や年間0.5ミリシーベルト以上の地域で暮らす住民を「被災者」として、213万人以上の人が健康診断の対象となっている。また、さらに手厚い支援を受けられる「チェルノブイリ障がい者認定」も、その病気が放射線に起因するかどうかだけでなく、原発事故による影響全般を対象に認定を実施している。

今回の専門家会議で行われた議論は、福島原発事故で、前者と後者のどちらを選択するかを分けるものであり、次回の論点整理が注目される。なお、長瀧座長が過去のインタビューで答えているように、原発被災者を包括的に健康支援する方針を検討する際、津波や地震によって避難した人たちの健康問題とどう区別して扱うのかが新たな議論となる可能性がある。

関連サイト
厚生労働省ー原爆放射線について
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/genbaku09/15e.html
「チェルノブイリ・子どもの健康診断手引き」
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1815

ノーカット版

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