小児甲状腺がん
2014/07/17 - 02:42

参考人「健康調査や線量評価の抜本見直しを」環境省会議

 
福島第一原発事故に伴う住民の健康管理のあり方等について検討している専門家会議の第8回会合で16日、福島医師会の木田光一副会長をはじめ5人の参考人が意見を述べ、国の責任による健康診断の実施や線量評価の抜本的見直しなどを提言した。
 
今回、参考人として発言したのは、福島県医師会の木田光一副会長、獨協大学の木村真三准教授、菅谷昭松本市長、岡山大学の津田敏秀教授、東大の森口祐一教授。まず福島県医師会の木田副会長は、原発事故による住民の健康管理は国の直轄事業と位置づけるべきだと主張。また現在の福島県民健康管理調査では、避難区域と避難区域以外で健診項目に差があるほか、受診率が低下していると指摘。日本医師会では独自に、健診のデータベースを構築していると述べたうえで、抜本的な見直しが必要であると提言した。
 

 
チェルノブイリにおけるフィールド調査経験の豊富な木村真三准教授は、現在、チェルノブイリ原発事故から250キロ以上は慣れたベラルーシのブレスト州で、事故当時子どもだった人の間で、甲状腺がんが多発していると報告。ベラルーシでは、年に2回健診が実施され、カルテが50年間保存されていると説明し、日本でも診断データを長期にわたって保存する仕組みの確保を求めた。
 
一方、ベラルーシで甲状腺がんの子どもを長く診てきた松本市の菅谷市長は、2年前にベラルーシを再訪した際のエピソードを写真つきで紹介。年間1ミリシーベルトを下回る低線量汚染地域でも、免疫機能の低下や造血器障害や周産期以上があると述べた。また、子どもたちは疲れやすく、授業時間が短縮されたり、クラブ活動でも途中休憩が必要になっていると報告。独裁政治のもと、医療従事者がチェルノブイリ事故に言及することは許されない状況にあることなども説明した。
 
岡山大学の津田教授は、福島事故後、「100ミリシーベルト未満の被曝では。放射線によるガンは出ない」などと話す研究者が後を絶たないと指摘。1949年にICRPの前身の国際X線ラジウム防護諮問委員会IXRPで、「放射線によるガンの発生にはしきい値はないと結論づけて以降、半世紀以上、変わっていないとして、そうした言説は慎むべきだと苦言を呈した。
 

 
また津田教授は、福島県内で実施されている甲状腺がん検査の結果を分析。がんが検出された割合を地域ごとに比較した結果、地域ごとに数字にばらつきがあり、スクリーニング効果という説明は難しいと指摘。今年3月末段階で、2次検査結果が7割以上確定している会津周辺地域を基準に、浜通り、中通りの検出数を比較すると、最も検出割割合の高い中通りの一部は11倍にのぼるとした。さらに、国立がんセンターのデータをもとに、分析した結果、有病期間を3年とすると、会津地域以外は、15倍から40倍多発していると述べ、原因(暴露=線量)の推論に固執すると、対策を遅らせて被害を拡大させると警告を発した。
 

 
最後に発言した東大の森口教授は、初期被曝データをはじめ、線量推計を実施するには、十分にデータの集約と分析がなされていない現状を指摘。浮遊粒子状物質を計測する大気汚染常時監視システムから、放射性物質に関する新たな実測データが見つかっていることを紹介。事故直後の2011年3月12日からの1時間ごとのデータを分析することで、初期被曝に関する線量の再構築ができると述べ、あらゆる経路の放射性物質を集約し、アーカイブすることの必要性を訴えた。
 
委員と津田教授の議論白熱
後半の議論では、特に津田教授の甲状腺がんに関する分析に関して議論が白熱。国際医療福祉大学クリニックの鈴木元院長が、青森、山梨、長崎の三県調査とオッズ比を比較したかを質問。これに対し、津田教授は三県調査は年齢が異なりすぎるため比較が難しいものの、かりに比較したとすれば、福島が有意に多いと説明した。すると鈴木院長は、今度は、福島県内で年齢を考慮する必要があるのではないかと質問。これに対し津田教授は「5歳ごとにデータが出ているので確認したが、それぞれの地域の年齢層は同じ。ほとんど年齢調整は不要であった」と回答した上で、「福島は3.1〜2年しかたっていないがこれだけの多発が見られている。すぐに対策をとるべきだ」と主張した。
 
この発言について、座長の長瀧氏は「この会議でがんが増えているということが結論になると大変」とコメント。続けて大阪大学の祖父江教授が、有病期間を3年としているのは短いのではないかと批判した。しかし、津田教授は有病期間を60年にしても有意差が出ると主張。3〜4倍のオッズ比が出ていれば、一般の環境問題の対策レベルからするとかなりの高率であると反論した。
 
津田教授はさらに「これは人間に対する調査。今も被ばくし続けている。結果が出るまで待ってられない。」と述べると、長瀧氏は「被曝してるというが、どういうことか」と疑問を呈した。津田教授は「私たちも福島の方々も被曝している。福島の人のほうが空間線量は高い」として、線量評価よりも、幅広い健康診断の実施や対策を求めた。
 
8月中にも結論へ
同専門家会議は、毎回、傍聴者を抽選で限定。傍聴者ごとに座る席が決められている上、ヤジなどに対して厳しい措置がとられている。この日は、参考人の発言に、会場内では度々拍手が沸いたが、その度に職員が注意に行き、神経を尖らせていた。
 
次回の開催は8月5日の午後5時からの予定。8月中に計2回、同会合を開催し、提言を示す。線量評価について、参考人の森口教授が、抜本的な見直しを提案したが、3ページにわたる線量評価のまとめ(骨子案)は、ほぼ修正をせずに、了承する見通し。また、被爆線量に基づいた健康リスクにに関してはUNSCEARの考え方を採用する方針だ。
 
配布資料
http://www.env.go.jp/chemi/rhm/conf/conf01-08.html
 
ノーカット版

 
【会議に関する動画、記事】
環境省「被曝影響会議」撮影禁止の方針〜副大臣は再検討と発言(2013年12月19日)
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1704
第1回住民の健康管理のあり方に関する専門家会議(2013年11月11日)
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1675
住民ら「結論ありきのメンバー」と批判〜環境省健康調査専門会議(2013年11月1日)
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1670
第3回 住民の健康管理のあり方に関する専門家会議(2014年2月
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1733
がんリスクめぐり激しく応酬〜第4回健康管理のあり方会議(2014年3月)
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1754
第5回 原発事故に伴う住民の健康管理〜国連科学委報告もとに対応へ(2014年5月)
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1769
第6回 原発事故に伴う住民の住民の健康管理のあり方に関する専門家会議(2014年5月)
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1780
福島県外の健康診断に消極的〜放射線専門家会議
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1800

 
 

 

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