福島第一原発事故
2013/11/01 - 12:09

住民ら「結論ありきのメンバー」と批判〜環境省健康調査専門会議


2011年低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループでも座長を務めた長瀧重信氏

福島原発事故の健康影響をめぐり、福島県外での健康調査を検討する「専門家会議」の顔ぶれが10月31日、公表された。住民が求めていた当事者や弁護士はゼロ。これまでに、政府や自治体の会議で委員などを務めている委員が多く、女性の委員は1人だけだった。

この専門家委員会は、現在、福島県民を対象とした健康調査しか実施されていないことに鑑み、福島以外の地域に関する健康管理の実情と課題を把握することなどを目的に設置されたもので11月11日に第1回目の会合が開催される。委員は、長瀧重信氏や放射医学総合研究所理事の明石真言氏など18人で、設置要綱によると「座長は委員の互選」とされるが、すでに長崎大学名誉教授の長瀧重信氏が内定している。

18人の委員のうち5人以外は、これまでに国や自治体が設置した委員会やICRPなど国際機関の委員に就任している「見慣れた名前」がずらりと並ぶ。例えば、遠藤啓吾氏は、官邸の原子力災害専門家グループのメンバーであり、2011年に設置された「低量被ばくワーキングチーム」の委員。東北大学名誉教授の中村尚司氏は、事故後に設置された文部科学省の「放射線等に関する副読本作成委員会」の委員長だった。

また、「新顔」の5人も、過去に低線量被曝に関して「影響がない」との見解を示している委員が多い。医療系のオンラインマガジン「メディカルオンライン」によると、疫学の専門家である大阪大学教授の祖父江友孝氏は、2011年3月29日に「国立がん研究センター」が行った緊急記者会見の席上、「100~200mSv以下の低線量域では、広島・長崎の原爆被爆者においても明らかな発がんリスクの増加は確認されていない」と強調したとされる。

同じく委員に就任した同センター中央病院放射線科診断科長の荒井保明氏も、食品・水への放射線影響に言及し「最近都内の浄水場で検出された放射性ヨウ素(最高測定値210Bq/kg)を線量換算すると、約216リットルを飲んで1mSv、0.31Bq/kgなら約169トンを飲んで1mSvになるにすぎない。」とした上で「今後も正しい情報に基づいて科学的に判断し、落ち着いて対処することが大切だ」と述べた。

このほか、内部被ばくの研究を怠ってきたと批判されている「放射線影響研究所」の理事長、大久保利晃氏の名前も。疫学の専門家、筑波大学大学院保健医療政策分野教授の大久保一郎氏は元厚生労働省感染症情報管理室長で、政府の検討会などに多数参加している。

「新顔」で唯一、政府にものを言いそうなのは、日本医師会常務理事の石川広己氏だ。石川氏は小児科医で、千葉県勤労者医療協会理事長。民医連から初めて日本医師会の常任理事に就任した異色の存在だ。日本医師会では医療政策を担当している。国の責任における健康管理の必要性を訴えてきた日本医師会の代表として、どのような発言をするか、注目される。

「結論ありきの人選」批判の声、続々
これまで、7回にわたって政府と交渉し、子どもたちの健康診断を求めてきた「放射能からこどもを守ろう関東ネット」の木本さゆりさんは、発表されたメンバーを見て「またしても、市民からの声を退けての人選。結論ありきの人選ですね」と話すとため息をつき、言葉を詰まらせた。「関東ネット」は、環境省が有識者会議を設置すると発表した後の7回目の交渉で、会議の公開とメンバーの人選について要望し、自分たちが推薦した人を入れて欲しいと訴えた。「 現地で直接医療に関わって、今、子どもと向き合っている人を委員に入れて欲しかった」とショックを隠しきれない様子だ。

また、「那須野が原の放射能汚染を考える住民の会」の代表、西川峰城さんは、「メンバーになった鈴木元氏は栃木県の有識者会議の座長で、栃木県知事に対し、「栃木県内は将来にわたって健康影響が懸念されるような被ばく状況にない」との報告書を提出した人。このメンバーを見る限り、住民サイドに立った結論がでるとは思えない」と嘆く。

「弁護士や当事者も委員にすべき」との意見噴出
放射能から子どもを守る宮城ネットワーク代表で、福島県に隣接する丸森町在住の太田茂樹さんは「子ども被災者支援法の理念と合致していない」と批判する。「子ども被災者支援法は「放射線の影響についてはわからないことが多い」という立場に立っているのだから、被曝影響が少ないと考えている似たような人をいくら沢山集めても仕方がない。放射能の健康への影響について慎重な立場に立っている専門家、リスクコミュニケーションの専門家、人権の観点から弁護士や社会学者など、市民団体代表なども加えるべきだ。」とした上で、「このメンバーでは健康調査が必要という結論にはつながらず、宮城県や栃木県で開かれた有識者会議の繰り返し。時間と労力の無駄だ。」と強調した。また、同会議の映像取材が冒頭のみに限定されていることについても「フルオープンにして、堂々と責任を持って発言して欲しい」と注文をつけた。

『つくられた「放射線」安全論〜科学が道を踏み外すとき」を執筆した上智大学の島薗進教授も、「県民健康管理調査を批判してきた人たち、人文系社会科学系の人たちがまったく入っていない。」と指摘。被災者の健康管理は社会総体の大きな課題であり、「医学」だけで扱うことができないとした上で、被災者の立場からものをいう被災者や弁護士などが議論に参加しなければならないとの考えを示した。「これでは、不信感はますます高まるだろう」と懸念する。

第1回目の会合は11月11日午前10時30分から2時間。東京千代田区のイイノカンファレンスセンターで開催される。傍聴申し込みは11月7日(木)正午必着。映像取材は冒頭のみに限定されているため、OurPlanetTVは、フルオープンでの取材を認めるよう要請している。

第1回東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う 住民の健康管理のあり方に関する専門家会議 の開催について(お知らせ)
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=17321

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