山口大学の高橋征仁教授(社会心理学)は7月19日、守谷市で講演を行い、福島第一原子力発電所事故により拡散した放射性物質でホットスポットとなった関東の地域住民に対する意識調査結果を公表した。分析によると、食品回避などの被ばくリスク低減行動をとっている母親ほど専門知識を有しており、また「放射線恐怖症」と呼ばれるような精神的な特徴はなかったと結論づけた。
高橋教授は、原発事故で放射能被害があったにも関わらず、ほとんど研究がなされていない福島県外の汚染地域を対象に調査を実施。放射性物質汚染対処特措法の汚染状況重点調査地域に指定されている千葉と茨城の住民約2000人から回収したアンケートの回答をもとに、低線量被曝問題をめぐる意識や行動などに関して分析した。
その結果、小学生以下の子どもがいる茨城在住の母親が、最も多くのリスク回避行動をとっており、中でも、つくば市在住の家族が、事故直後に避難行動をとっていた人数が多いことが分かった。また、リスク低減活動をしている人は、メディアリテラシーが高く、積極的に情報収集を実践していると専門家のブログやチェルノブイリ事故に関する情報にアクセスしていることが、リスク回避に影響していることが分かった。
一方、事故から4年が経過した現在では、事故当初に比べ、実践している被ばくリスク低減活動は大幅に減少。「対策なし」が役割から5割に増加した。しかし、「水道水」や「牛乳」「魚介」については、今も2割程度リスク回避をしていた。
調査では、買い物ストレスや家族などとの関係で、この4年間で、疲弊していることも明らかとなった。また、外部との軋轢を割けるために「放射能問題を人前ではしゃべらない」ことにしている割合が高かった。
政府が実施しているリスクコミュニケーションや政府広報では、被ばく低減活動をしている母親たちを「放射能恐怖症」といった見方で、不安解消策を展開している。これに対し、同
調査では、BIS(Behavior Inhibitition System 行動制御システム」の尺度を用いて、実際に、政府の指摘が正しいかを分析した。
その結果、リスク回避をしている人としていない人の不安傾向を比較したところ、両者に大きな違いはなく、避難したり、食品を回避している母親たちに「放射能恐怖症」と思われるような傾向ははなかった。
また、同調査では、今も変わらずリスク低減活動をしている母親の中に、子どもの体調に、何らかの「異変」を感じているケースが多いことも明らかにした。小学生以下の子どもがいる場合、子どもの体調に変調があった割合は、茨城県で3割、千葉県で2割程度存在するにのぼる。体調の変化で最も多かったのは鼻血で、咳や皮膚症状などが続く。
小学生以下の子どもがいる母親は、子どもたちに対して健診を希望する割合が圧倒的に高く、甲状腺エコー健診では8割、尿中の放射性物質検査は9割、血液検査も茨城では6割以降が希望していた。
調査にあたった高橋教授は、政府が広く拡散した放射能汚染を無視し、避難指示区域しか避難を認めていないことを疑問視。リスクコミュニケーションによる不安抑制策は、事故前に「原発は安全です」と言っていたロジックと同じであるとした上で、個人が被ばく回避を続けることには限界があり、社会化する必要があるとしている。同研究は、10月に刊行される関西学院大学災害復興制度研究所の『災害復興研究』に掲載される。