(3・11甲状腺がん子ども基金が療養費給付を発表した昨年11月30日の記者会見)
甲状腺がんの子どもに対する経済支援を実施している「3・11甲状腺がん子ども基金」は1日、給付対象者が100人に達したと発表した。給付を受けている患者のうち、再手術となった患者が少なくとも7人おり、そのうち5人は福島県民健康調査でがんが見つかった患者だという。
「3・11甲状腺がん子ども基金」は昨年7月に発足したNPO法人で、震災時に、東北から東海地方にかけて16都県に居住していた小児甲状腺がん患者を対象に一人あたり10万円以上の療養費を給付している。昨年12月から先月9月までの計10回の給付で、申請のあった100人と特例の患者2人に対し、総額1,210万円の療養費を給付した。
最も人数が多いのは福島県の73人で、次いで東京、神奈川、埼玉が各4人。宮城3人、茨城、千葉、長野2人と続く。福島県内の患者73人のうち、県が実施している県民健康調査の甲状腺検査を受診してがんが見つかったのは66人だが、「経過観察」となり県のデータには含まれていない患者とされているため、自覚症状などがでて診察を受けた患者や独自に甲状腺検査をしてがんが見つかった患者を含め、少なくとも8人以上が検討委員会が公表しているデータに含まれていないという。
低くない再発率〜福島県民健康調査の患者
同基金では8月から、がんの再発などによって「再手術」を受けた患者に対して、追加給付を開始した。その給付実績も公表された。
それによると、これまでに7人が「再手術」を受けており、福島県内の患者は6人だった。さらに5人は福島県民健康調査で甲状腺がんが見つかった患者で、1回目の手術で、左右にある甲状腺のうち片方を摘出したものの、その後に再発し、全摘手術を受けた患者だった。
福島県民健康調査の甲状腺検査をめぐっては、「見つけなくても良い甲状腺がんを早期に見つけている」とする「過剰診断論」を唱える専門家が主流となっているが、基金の給付実績によれば7%以上が再発している現状が明らかとなった。
鈴木眞一教授によると、事故前の福島県立医大で手術を施行した甲状腺がん患者の5年再発率は6%だという。基金から給付を受けた患者は、県民健康調査でがんと診断されている患者の3分の1にすぎないため、単純な比較はできないが、福島県民健康調査で見つかった甲状腺がんの再発率が、事故前の県立医大の5年再発率を上回っている恐れもある。
手術を受けた患者の症例や予後の開示必須
甲状腺がん患者の手術症例や再発・転移などを含む予後について、OurPlanet-TVは昨年3月、福島県立医大に対し、症状の悪い患者の存在を明らかにするよう、症例および予後に関するデータの公表を求めた。しかし、「個人情報」を理由に開示を拒否。また鈴木教授も「余計なことを話すとクビになる」とした上で、いずれ論文で発表する述べるにとどまった。
しかし研究倫理の専門家によると、学会や論文で報告可能なものは、住民にも報告可能であるどころか、本調査の場合は優先すべきと指摘。「福島県の住民がこの健康調査に望むものは何なのか。個別に結果が返される以外に、どのようなことが知りたいのか。」を前提とすべきだという。また「研究」として実施されている現状では、受診者の同意が必要となり、悉皆性がなくなることを懸念。行政の保健事業として位置づければ、予後や死亡などまで追ったフォローアップも含め、検査結果を住民に公表することは可能だと提案する。
福島県外の状況
福島県外で給付を受けているのは、前述したとおり、東京・神奈川・埼玉が各4人。宮城が各3人、茨城・千葉・長野が各2人、岩手・秋田・群馬・新潟・山梨・静岡が各1人で、千葉県の患者が一人、再手術を受けている。また手術後に、甲状腺を全摘し、放射性ヨウ素を使ったアイソトープ治療(RI内服療法)を受けたのは10人となっており、基金では、福島県内に比べ福島県外のRI適用患者が10倍差があると指摘している。
福島県外では、福島県「県民健康調査」のような包括的な甲状腺健診は行われていないため、患者の多くは、自覚症状などによってがんを見つけている。このため、手術を受ける段階でがんが進行しているケースも多く、全摘患者の比率が多いものと見られる。甲状腺を全摘した患者は、一生、ホルモン薬を服用する必要がある。一方、片葉切除に比べ、全摘患者は再発リスクが低くなるメリットがあるとされており、実際、県外での再発率は3%にとどまっている。
※記事や図に、一部、誤りがありました。訂正してお詫びします。