国際放射線防護委員会(ICRP)は来春にも、原発事故後の放射線被曝防護基準を年間1ミリシーベルトから、10ミリシーベルトに見直す方針であることがわかった。現在、実施しているパブリックコメントを経て、来年春に開催される主委員会で決定する。
見直しを行うのは、緊急時と回復期(現存被曝状況)被曝防護策を定めた「ICRP Publications 109」「ICRP Publications 109」の2つ。これまでの勧告では、原発事故後の緊急時には100から20ミリシーベルト、回復期には20ミリから1ミリシーベルトの間に参考レベルを置き、被曝の低減に努めることを求めていたが、これを緩和。緊急時は100ミリ、回復期は10ミリシーベルトとする。
今回の勧告の特徴は、原子力発電所事故後の避難の解除や高線量地域での居住継続を位置付けていること。報告書では、チェルノブイリと福島の原子力事故では、緊急時および回復期の防護基準が厳しかかったことにより、マイナスな影響を与えたとして、数年内に避難解除することを前提として、初期の対応を行うべきだとしている。
報告書とパブリックコメント募集のページ
>Radiological Protection of People and the Environment in the Event of a Large Nuclear Accident
被曝防護より住民との対話?〜ICRPダイアログを全面へ
また報告書は、規模の大きな原発事故に対処するためには、放射線防護よりむしろ、社会的な要因を重視すべきと指摘。ICRPが福島県内の市民グループ「福島のエートス」とともに実施してきた「福島ダイアログ」や「ICRPダイアログ」に言及し、科学への不信を解くには、住民との対話を重ねることが重要だとしている。
報告書では、「福島のエートス」安東量子さんの報告を複数引用。いわき市末続の住民が、個人線量計やボールボディーカウンターで自分の線量を把握した実践や専門家と被災者の知識の共有が重要な役割を担ったとしている。また、福島医科大学の宮崎真氏の論文をもとに、個人線量計の有用性を強調。さらに、地域の放射線防護対策を計画するにあたって、行政当局が住民データを入手する意義にも言及している。
(c)ICRP
甲状腺検査は100~500mGyの小児のみ
また、県民健康調査については、福島県で発見された小児甲状腺がんは、事故後の放射線被ばくの結果である可能性は低いと指摘。甲状腺の超音波検査は、甲状腺に100〜500 mGyの被曝をした胎児、小児、青年期にのみ限定して実施すべきと勧告した。
原発事故後の被曝防護の基準値見直しにあたって、ICRPは2013年、タスクグループ(TG93)を発足。日本からは、放射線審議会委委員の甲斐倫明氏と原子力規制庁の本間俊充氏が委員に就任した。その後、足掛け5年かけて勧告をまとめ、勧告の見直しを行う委員会(第4委員会)に提案。今年6月、バブコメ用の報告書が一般公表された。パブリックコメントを経て、来年春に開催される主委員会で決定される見通しだという。パブコメの受付は今年9月20日まで。