国会記者会常任幹事社の第3者委員会に申し立て
今年7月、OurPlanetTVが官邸前の抗議行動を撮影するために、国会記者会館の屋上からの撮影を求めて仮処分申請をしていた問題で、9月24日、OurPlanetTVは国と国会記者会を相手どる損害賠償訴訟を提訴しました。これと平行して、OurPlanetTVでは、国会記者会の常任幹事4社(共同通信、朝日新聞、テレビ東京、西日本新聞)の第三者委員会等に対しても、申し立てを行っています。以下、共同通信の「報道と読者委員会」宛ての申立書を記載します。
2012年9月24日
一般社団法人 共同通信社
報道と読者委員会御中
開かれた国会記者会館運営を求める申し立て
特定非営利活動法人OurPlanetTV
代表理事白石草
この夏、毎週金曜日に官邸前で展開されている反原発の抗議行動が大きな話題となりました。今年3月から始まったこの抗議行動は、野田総理大臣が大飯原発再稼働を宣言した6月8日以降、大きなうねりを見せ、数万人規模に膨らんだことはご承知のことと存じます。
私たちOurPlanetTVは、去る7月6日、こうした市民のうねりを記録・発信するために、国会記者会館の屋上からの撮影を試みましたが、国会記者会の事務局長らに阻止され、記者会館内に立ち入っての取材はできませんでした。その後、国会記者会に対し弁護士を伴っての申し入れを行いましたが状況は改善しておりません。
9月24日をもって裁判を提訴するに至りましたが、貴委員会におかれましても、国会記者会館から国会記者会非加盟のメディアを排除する現在の運営手法について見解を示していただきたく存じます。
メディア環境の変化と記者室の使用
OurPlanetTVは、2001年に設立した非営利のインターネットメディアです。既存のテレビ番組などでは取り上げられにくい社会問題を中心に、1000本近い番組を配信してきました。福島第一原発事故以降は、当局から発表される情報以外も重視した報道が一定の評価を得、今年度は、他の報道機関と並んで、放送ウーマン賞と日本ジャーナリスト協会賞の2つの賞を受賞しています。可視化されにくい人びとの声を伝えるために、市民によるデモや抗議行動も重要な「ニュース」として取り上げているのも大きな特徴です。
私たちOurPlanetTVは、官邸前の抗議行動も、既存のマスメディアが十分に報道する以前から現場の熱気を伝え、視聴者の知る権利に応えてきたと自負しています。組織されていない市民が国会前の道路に溢れ、思い思いに表現活動を行う行は、戦前戦後を含め、日本の歴史上においては初めてといっても過言ではありません。しかし、マスメディアは数万人に人数が膨らんでもまったく報道をしませんでした。
「何人集まれば、マスコミは報道するのか」。これは、現場でよく耳にした声です。官邸前にあれほどの人数が官邸前に集結した背景には、野田政権に対する怒りだけでなく、マスメディアがデモを報道しないこと対する怒りがあったことを指摘しなければなりません。こうした怒りが市民に火をつけ、市民のカンパで空撮用のリコプターを飛ばす「正しい報道のヘリの会」には、1週間で約1000万円もの寄付が寄せられました。
市民が、このようにメディアへの不信の増幅させている、その中核となるのが「記者クラブ制度」への疑問です。記者クラブも結成当初は、確かに、当局に対して情報開示を迫る役割を果たしていたかもしれません。しかし、戦前から戦後にかけて、大本営発表を垂れ流す広報機関となり、また、近年では、大手の新聞社やテレビ局などによる「取材カルテル」と揶揄されるなど、閉鎖的な体質が批判を浴びています。
こうした中、日本新聞協会も再三、記者クラブに関する見解を改訂してきましたが、非加盟メディアやフリーランスに対する対応は、長い間改善がなされませんでした。こうした状況にしびれを切らしたジャーナリスト有志が2010年2月、「会見開放」の会を設立。期を同じくして、新聞労連も「記者会見の全面開放宣言~記者クラブ改革へ踏み出そう」という声明を発表しました。その後、政権交代などの影響もあり、記者会見オープン化は徐々に進み、私たちOurPlanetTVも、警視庁など一部の記者会見を除いては、限定的とはいえ、徐々に参加できるようになっています。
国会記者会館の特殊性と非加盟社の使用
国会記者会館の現在の建物が建設されたのは1969年。当時、衆議院事務総長が、国会記者会代表者あてに発行した「国会記者事務所の使用承認について」(3月15日)という文書の8条には、「建物の使用目的に鑑み、国会記者会加盟社以外についても衆議院が必要と認めるものは、使用できるものとし」との記載があり、本施設が国会記者会非加盟社の使用を想定していたことがうかがえます。ところが、国会記者会は現在、自らは報道や取材の自由をもって国会記者会館無償貸与の正当性を主張する一方、インターネットメディアやフリーランスに対しては、排除する姿勢を貫いています。
記者クラブは、1890年(明治23年)、帝国議会が新聞記者の国会取材を禁じたため、在京各社の議会担当が「記者団」を結成。取材用の傍聴席を確保したことなどが源流とされています。当時は、会社単位の加盟ではなく、ジャーナリスト個人単位の加盟でした。国会記者会こそが、まさに「取材の自由」「知る権利」を得るために、公権力に情報公開を迫るもっとも歴史ある組織であると考えたとき、現在の閉鎖的かつ排他的な態度は、非常に残念であると言わざるをえません。
日本新聞協会は2006年、報道を取り巻く環境が大きく変化したとして、記者クラブに関する見解を検討し公表しています。それによると、「記者室は、報道機関と公的機関それぞれの責務である「国民の知る権利に応える」ために必要な、公的機関内に設けられたジャーナリストのワーキングルームである」として、「公的機関は、記者クラブ非加盟のジャーナリストのためのワーキングルームについても積極的に対応すべきである。」と、記者クラブ以上に開かれるべきであると指摘しています。
国会記者会館は、国内で唯一、記者クラブ自身が、国有の財産(記者室)を管理・運営している建物です。国会記者会は、結成当初の理念を考えれば、今こそその原点に立ち戻り、新しいメディアを迎いいれることによって切磋琢磨し、権力の監視にまい進すべきではないでしょうか。
記者クラブ結成当初の理念へ
情報発信を行っている多様なメディアや個人などが、平等な立場で自由に取材・報道を行う機会を得ることは、報道機関同士の公正な競争を促進することによって報道全体の質を高め、民主主義社会の発展につながると確信しています。ところが、今回の国会記者会は、私たちの申し入れに対し、「120年の既得権がある」と主張。かつて、大手メディアのスタッフとして、国会記者会館を利用していた過去を告げると、「今は身分が違う」と、ネットメディアに対する嫌悪感を露骨に示しました。
国会記者会は結成の理念にたちかえり、非加盟社であっても、「知る権利」に資するといった目的に合致する範囲において、国の施設である国会記者会館を等しく使用できるよう、運用を見直すべきであると考えます。また、国会記者会館常任幹事社においては、取材・報道の自由及び民主主義の発展のために、時代や環境の変化を勘案しながら、組織内外の仕組みを再検討して、主体的に改革を行うべきです。
国会記者会館の常任幹事社の「報道と読者委員会」におかれましては、上記趣旨の本申し立てについて、見解を発表することを求めます。本来、記者クラブの問題は、記者クラブを構成する報道機関やジャーナリストが、報道という公共的な目的を共有することによって、独自に解決すべき事項です。しかし、記者会からの対応に誠意がなく、同時に取材する事象が変化する中で、OurPlanetTVとしては、取材の機会を得るためにはあらゆる手段を行使せざるをえないというのが実情です。よろしくお願いいたします。