小児甲状腺がん
2025/03/05 - 13:00

判決は3年後〜子ども甲状腺がん裁判の見通し

福島第一原発事故から放出した放射性物質に被曝したことが原因で甲状腺がんになったとして、事故当時、福島県内で居住していた若い男女が東京電力を訴えている裁判(子ども甲状腺がん裁判)の13回口頭弁論が3月5日、東京地方裁判所で開かれた。原告弁護団によると、口頭弁論前に開かれた進行協議で、裁判所は判決まであと3年かかるとの見通しを示したという。

冷たい小雨が降りしきる中、入廷行進が行われた甲状腺がん裁判。この日は、甲状腺がん裁判と同じ内部被ばくによる被害を受けたとして、被爆者健康手帳の交付を求めて裁判を起こし、国に全面勝訴した「黒い雨」訴訟の原告・高東征二さんが広島から駆けつけた。

被告の意見書3通の中身とは

この日の期日では、被告側が専門家の意見書を三通提出した。一つ目は、疫学を専門とする大阪大学大学院医学系研究科の祖父江友孝教授の意見書で、100ミリシーベルト以下の低線量被曝ではがんは増えないと指摘。被曝とがんとの因果関係を否定したUNSCEAR2020/21報告書は妥当であり、検討委員会のまとめも合理的であるとした上で、原告側が提出している津田意見書は論理の飛躍があると批判した。

2本目は、放射線医学が専門の東京大学の中川恵一特任教授による意見書だ。中川氏は、福島原発事故での被ばく線量は低くこのような被曝量ではがんは発症しないと指摘。また甲状腺がんはほとんどが潜在がんであり、県民健康調査と従前のがんとを比較して被曝影響があると推任するのは妥当ではないと述べている。

3本目も、疫学を専門とする国際医療福祉大学大学院医学研究科の津金昌一郎教授の意見書で、同じく、県民健康調査で数多くの甲状腺がんが見つかった原因は、甲状腺スクリーニング検査が実施されたためと、被曝との因果関係を否定した。ただ、本格検査(検査 2回目)で悪性と診断された71人について、先行検査後の2~3年間に甲状腺がんが新規に発生したり、検査で検出される大きさになったと考えるか、本来は先行検査で検出されるべき甲状腺がんが偽陰性となり検出されなかったか、いずれもが含れるとの見解を示した。東京電力は今後、線量に関する意見書と、医学的な意見書の二通を提出する予定だ。

最大の争点は「福島で多発が起きているか」

口頭弁論に先立ち開かれた進行協議で、原告が提出した争点整理(案)をめぐり、裁判所が現時点での認識を述べたことを、原告弁護団が明かした。弁護団によると、島崎邦彦裁判長は、「福島で見つかっている甲状腺がんが、他の地域を比較した場合、多発しているかどうかが一番、重要な争点」だとの認識を示したという。また仮に、多発が認められた場合、特に他の原因がない場合、そのがんは被曝によるものと推定できると述べたという。

しかし、実際には、同じ条件、同じ規模の調査は行われていないため、県民健康調査の結果やスクリーニング効果をどう評価するのかが争点となるとした上で、100ミリシーベルト論や被曝量については、こうした疫学的な争点との関連した問題として争点になりうるとの見解を示したという。

また裁判所は、今後の進行の見通しについても述べた。それによると、1年先の来年6月までに書面でのやり取りを終わらせ、同年9月に専門家の証人尋問と本人尋問を開始。尋問は1年以内に終わらせ、最終準備書面を提出して結審し、判決は約3年後になるとの見通しを示したという。

自分で読み上げたかった

この日の口頭弁論では、原告3の陳述書と準備書面を提出し、弁護士が準備書面の要旨を読み上げた。原告は期日後の会見に出席し、自身で読み上げたかったが叶わなかったと、落胆した表情で話した。

Standing Together, Creating the Future.

OurPlanet-TVは非営利の独立メディアです。視聴者の寄付を原動力に取材活動を展開しています。あなたもスポンサーとして、活動に参加してください。継続的に支援いただける方は会員にご登録ください。

※OurPlanet-TVは認定NPO法人です。寄付・会費は税額控除の対象となります。