2024/07/17 - 15:59

住まいを追われる原発避難者~末期がん女性の苦悩を聞く

2011年3月の東日本大震災とそれに伴う原発事故から13年ー。政府が避難指示を出さなかった地域から避難したいわゆる「自主避難者」に対し、自治体が立ち退きを求める裁判が、全国各地で起きている。 政府が2017年3月をもって、「自主避難者」への住宅支援を打ち切ったことが背景にある。大阪市から訴えられている一人の避難者から話を聞いた。

大阪市営住宅で一人暮らしをしている新鍋さゆりさん(仮名)。震災後、関東から大阪市に避難し、5月に市営住宅への入居を斡旋された。新鍋さんは、地元に帰らず、そのまま大阪市に落ち着くことを決めたのは秋口だ。しかし、避難前から抱えていたうつ病が悪化したこともあり、生活保護を申請した。

すると窓口で「罹災証明がないと生活保護は受けられない」「地元に帰った方があなたの病気が良くなる」などと追い返されてしまった。「何でですか。」という新鍋さんの問いに、担当者は「何ででもです」と返したという。

その後、震災相談の窓口で出会った弁護士を伴って区役所を訪れたところ、今後は申請できた。しかし保護費の受け取りのたびに、職員から怒鳴られたり、追い払うような仕草をされたり、差別的な態度を取られ続けた結果、次第に、保護費受け取りの数日前になると睡眠不足になったり、役所が近づくと動悸が激しくなるようになった。

末期がん告知の直後に「立ち退き通知」

さらに新鍋さんに追い討ちをかける出来事が起きる。2016年春、がんの告知を受けたのである。詳しく調べると進行性の末期であることが分かった。その前後、大阪市の住宅局から一通の手紙が届いた。2017年3月31日までに市営住宅から退去するよう求める通知だった。

新鍋さんは、がんとうつ病という2つの病気を患い、容易に引越しができる状態にはなかったため、市役所に連絡。業者のおまかせパックを使えるか尋ねたところ、市はダメだと認めず、「頑張りや〜」とだけ声をかけたという。新鍋さんはこの頃、強迫性障がいも発症し、外出することも難しくなっていた。強迫性障がいになると、強い不安や恐怖によって、一つのことが頭を離れず、日常生活に支障が出てしまう病気を指す。新鍋さんは、除菌されていないものには触れることができなくなり、普通に椅子に座ったり、ドアを開けたりすることも困難になっていた。

そんな中、退去期限の2017年3月31日がやってきた。その当日、生活保護の担当者から電話があり、「今日で保護は打ち切る」と告げられた。「違法に住んでいるから」との理由だ。

保護費と引き換えに退去迫る行政

新鍋さんは以降、保護費を受け取りに行くたびに別室に呼ばれ、「退去しなければ来月には打ち切り」だと釘を刺された。毎回1時間くらいは、厳しい言葉をかけられたという。病院の検査があると説明しても、「話してからじゃないと生活保護費は渡せない」と言われ、「今日はMRIの検査が入っているから遅刻はできない」と訴えても、「そんなら、要らないんやな」と、保護費が入った封筒を引っ込める。そんなやりとりが繰り返されたという。

ある時は、「もしがんの薬がなくなるとどうなるのか」と聞かれたため、「死ぬことになります」と答えたところ、「それはすぐ死ぬんですかって」「どれくらいで死ぬんですか」「いつ死ぬんですか」「どうやって死ぬんですか」と畳みかけられたという。ちなみに、新鍋さんのこうした証言に対し、大阪市の職員は裁判の証人尋問で、そのような発言はしていないと否定している。

それが1年ほど続くと、新鍋さんのもとには、生活保護の停止前に通知することになっている「弁明の機会付与通知書」が届いた。新鍋さんは、生活保護申請時にも力を貸してくれた弁護士を伴って役所に出向き、弁明を述べた。すると、生活保護の打ち切りは撤回され、継続されることとなった。

6年間越しの裁判は結審へ

ところが今度は、大阪市から、部屋の明け渡しと1700万円の損害賠償を求める訴状が届いた。新鍋さんはこれに対し、逆に大阪市を訴える裁判を提起。約6年間、裁判が闘われてきた。7月19日15時から、大阪地裁1006号法廷で開かれる口頭弁論をもって結審する見通しだ。

新鍋さんは、こう振り返る。「もう死のうかなってよく思ったんです」「いじめ続けられると、死ぬしかないって思っちゃうようになって」「本当に弱い立場にある人は、原発事故の住宅支援が6年というのは短いです」「避難指示区域とか自主避難とかと関係なく帰れないと判断した人にはもっと長期の住宅支援があるべきだっただろうなと思います」

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