東京電力福島第一原発事故後に福島県で行われている「県民健康調査」の検討委員会が5月10日、福島市内で開かれ、福島県の母親らが委員の一人である環境省の神ノ田昌博環境保健部長に対し、辞任を求める要望書を、重富秀一座長に提出した。
要望書は、水俣病犠牲者の追悼慰霊式のあとの懇談の場で、患者団体などのメンバーが発言している途中で環境省の職員がマイクの音を切った問題を受けて、作成されたもの。要望書では、「公害被害の救済を担当する環境省が被害者にどのように向き合ったかを明らかにした」とした上で、神ノ田部長が甲状腺検査の縮小を主張してきたのは「被害者救済とは正反対の姿勢」だと指摘。検討委員会の委員を辞任するよう求めた。
甲状腺がん患者は372人に
この日の検討委員科で、新たに甲状腺がんの疑いがあると発表があったのは5巡目の2人。これまでに、悪性疑いと診断された子どもは330人となり、がん登録で把握された2018年までの集計外の患者43人をあわせると、事故当時、福島県内に居住していた18歳以下の子どもの甲状腺がんは、術後に良性だった一人を除き372人となった。
新たに公表されたのは5巡目の結果。穿刺細胞診の結果、悪性と診断された患者は、5巡目で2人増え、45人となった。また手術をして甲状腺がんと確定した人も、5巡目で2人増え、がんと確定した患者は276人となった。
妊産婦検診は終了へ
このほか、妊産婦調査の最後の報告が行われた。妊産婦調査は、福島県内の妊産婦の多くが、放射能による子どもへの影響に対して不安を抱えていることから、「県民健康調査」の詳細調査の一つとして、2011年度から2024年度までの4年間実施された。この後、 とくに23年度、24年度に出産した母親に不安やうつ傾向が見られることから、4年ごとにフォローアップを実施してきた。今回は公表されたのは、その結果。
年々、放射線への影響や心配は低減しているものの、放射線影響について一つでも不安があると回答した人は、最も最近の調査でも58%と半数にのぼった。なお、早産率や低体重児の比率や先天異常の発生率は全国の平均と差はないと結論づけた。妊産婦調査は、最終の報告で全て終了となり、今後は相談活動などのみをおこなっていく。
近畿大学へのデータ提供、研究計画の倫理審査まだ
学術目的のために「県民健康調査」のデータについて、昨年3月に、近畿大学医学部公衆衛生生物学教室の今野弘規教授が、試験的に研究を実施すると発表ししてから1年が経過した。しかし現在のところ、研究計画は倫理委員会に提出されていないことが、記者会見における解答で判明した。
「県民健康調査」のデータは現在、福島県から委託を受けている福島県立医科大学の研究者のみが、このデータを用いた研究を許されている。しかし、福島県立医大以外の研究者による解析も実施されるべきだとして、2016年5月に、「学術研究目的のための第三者提供のあり方に関する検討部会」を設置。6回の会議を経て、2020年1月に報告書が取りまとめられ、同年7月に検討委員会に報告されていた。しかし、実施するための要綱を検討に、5年間を要し、さらにモデル研究を実施する必要があるなどとして、具体的なデータ提供の道筋は今も示されていない。