生まれたときの性別とジェンダー・アイデンティティ(性自認)が一致しない「トランスジェンダー」の人が、性別の変更を行うことをできるとする「性同一性障害特例法」 で、性別適合手術を要件とすることは違憲か。最高裁判所での弁論の前日、当事者・支援団体が会見を開き、改めて性別適合手術の問題点を訴えた。
「高額な手術費用を支払い、自分自身の身体にメスをいれなければいけないことを知ったとき絶望した」と振り返ったのは、映像クリエイターの木本奏太さん。決まっていた就職を辞退し、寝る間も惜しんでアルバイトで手術費を稼いだという。2004年に施行された「性同一性障害特例法」は、戸籍上の性別を変更する際、生殖機能を完全に失わせることが要件とされている。事実上、「性別適合手術」を必須としたもので、200万円近くかかる手術費用は自己負担となる。また、生殖機能を失うと性ホルモンの分泌がされず、一生涯、性ホルモンを服用する必要がある。
悩みに悩んだ挙句、手術をしないことを決意したというレインボープライド共同代表の杉山文野さんは、「生きるために制度があるわけで、制度のために生きているわけではない」と強調。見た目と戸籍上の記載が合わないことで「むしろ周囲の人に混乱が起きている」と訴えた。杉山さんは、現在、戸籍を変更せずに、女性パートナーと子どもを育てているという。
国連人権理事会でも撤廃を勧告
トランスジェンダーの中には、性別適合手術を望む人がいる一方で、高額な手術費用、健康上の理由で性別適合手術を受けられない人が存在する。見た目と戸籍が合わないことにより、行政手続きや就労・社会参加の過程において壁が多く、社会生活に不利益を被る事例が多数報告されている。長年に渡り問題が指摘されており、国連機関からも度々勧告を受けている状況だ。今年1月にも、国連人権理事会において性別適合手術を要件を撤廃するよう勧告を受けている。
群馬大学准教授で倫理学者の高井ゆと里さんは「考えるべきことは、なぜ社会がこの法律を残そうとしているかということです」「その理由があるとして、それはトランスジェンダーの人権を侵害に足る理由なのでしょうか」と語気を強めた。年内にも最高裁が判断をくだす見通しだ。