東日本大震災以降、福島県から埼玉県内に避難してきた被災者支援をおこなってきた「震災支援ネットワーク埼玉」は3月8日、原発避難者へのアンケート結果を公表した。PTSDの可能性がある人が37.0%にのぼり、今なお避難者の多くがストレス状態に置かれているという。
このアンケート調査は、避難者のニーズを把握するために2012年から毎年実施しているもので、今回で10回目。避難元自治体と連携して、調査用紙を避難者宅に郵送するなどし、首都圏避難者の避難状況を調べ分析してきた。今回の調査期間は昨年1月から4月にかけての4ヶ月で、浪江町、双葉町、大熊町、富岡町、いわき市から関東1都6県に避難している5,350世帯に調査票を配布し、9.6%にあたる516世帯から回答を得た。
解析にあたった早稲田大学の辻内琢也災害復興医療人類学研究所長らは記者会見で、原発避難者が極めて高いストレス状態が続くなかでの生活を余儀なくされていると指摘。経済的に困窮している避難者が多く、その背景に失業などの問題があるとしている。また、国が被災者に対する住宅支援の打ち切ったことについて、困っている避難者が多く、経済的、精神的に追い詰められていると指摘。特に避難者に対する「立ち退き訴訟」は非人道的であると非難した。これらの結果をもとにまとまた要望書を復興庁と厚生労働省に提出した。
PTSDの3大リスク要因は賠償、失業、いやな経験
事故から12年経過したものの、今回のアンケートでは、今も3割の人がPTSD(心的外傷ストレス障害)の可能性があることがわかった。事故翌年の67.3%に比べると低下しているものの、2015年以降、40%前後で推移しており、高止まりしているという。これらPTSDの原因を分析したところ、リスク要因となっていたのは、①賠償や補償の問題(13倍)、②失業(6倍)、③避難者としてのいやな経験(5.8倍)の3つ。損害賠償をめぐっては、現在も4分の1の人しか、全ての請求を終えていないことも判明した。
また、避難先地域での孤立感を調べたところ、半数以上が孤立感が高いと判明。悩みを相談できているかについては、「相談できていない人」が33%にのぼったほか、原発事故によって避難していることを地域の人に話すことについて「抵抗がある」と答えた人が21.6%、「どちらかというと抵抗がある」人は32.1%にのぼり、あわせると53.7%の人が、地域の人に避難していることを話しにくい実情があることがわかった。
居住許容線量は1ミリシーベルト以下が54%
アンケートでは、「ふるさと」についても質問した。「ふるさと」を失った気持ちについての設問では、「とてもつらい」が39.3%、「つらい」が29.5%で、合わせて7割を超えた。一方、「ふるさと」に帰りたいかどうかについては、「絶対に帰りたい」が4.7%、「帰りたい」が15.5%だったのに対し、「帰りたくない」は26.9%、「絶対帰りたくない」5.2%と、「帰りたい」より「帰りたくない」が上回った。さらに、帰還や移住に関する今後の方針では、「帰還する」と答えたのはわずか5.0%で、「避難を続ける」が23.8%、「移住する」が39.5%、「決めていない」が24.4%だった。
政府は年間20ミリシーベルトを基準とし、帰還困難区域の避難指示解除も進めている。こうした政府の政策とはうらはらに、「ふるさとの放射線量がまだ安全でない」と考える人は62.9%にのぼった。また、居住しても良いと考える放射線量の水準について尋ねたところ、「追加被ばくが0ミリ」とする人が39.3%と最も高く、次いで「追加被ばく年1ミリシーベルト以下」と考える人が17.8%と、1ミリ以下の地域で暮らしたいと考える人は5割を超えた。
甲状腺検査は「縮小すべきではない」が6割
現在の健康状態を尋ねたところ、原発後、持病が悪化した人は52.4%と半数以上にのぼり、新たに病気を患った人は63.3%を占めた。さらに同アンケートでは、甲状腺がん健診についても質問。検査の縮小されていく方針いついての考えを尋ねたところ、縮小した方が良いと答えたのはわずか7.0%にすぎず、縮小しない方が良いが59.1%だった。また、甲状腺検診のエリアを拡大し、福島県外であっても被曝した可能性のある人には検査を無料実施すべきだと考えている人が、56.2%に達し、「いいえ(10.3%)」を大幅に上回った。また、甲状腺がんが増えていることについて、「スクリーニング検査によるもの」だとする考えについて、「納得できる」人はわずか9.5%、「納得できない」は36.4%だった。