LGBTQ
2022/08/23 - 12:45

埼玉県のタクシー会社「中小企業の意識変われば世の中は変わる」~LGBTQ取組へ~

全国最多の36自治体でパートナーシップ制度が実施されている埼玉県で7月7日、「埼玉県性の多様性を尊重した社会づくり条例」が埼玉県議会にて賛成多数で可決し、翌日の7月8日に施行された。条例では性的指向又は性自認を理由とする不当な差別的取扱いの禁止、アウティングの禁止、カミングアウト強要の禁止をはじめ、事業者の責務として、LGBTQ+をはじめとする性の多様性に関する配慮や理解を深める取組を行うよう定めている。

地元団体が必要性を訴え続け実現した条例

この条例の制定には、 埼玉県全域で議員・自治体へのLGBTQ+啓発活動を行っている当事者支援団体 『レインボーさいたまの会』(代表:加藤岳さん) が大きく貢献した 。「課題解決のために、性的マイノリティの立場に立った政治の強いリーダーシップが必要」と埼玉県議員に直接訴え続けてきた加藤代表は、「法律や条例ができることで
人の意識や企業の意識は変わっていくので」「(条例の制定は)追い風になると思います」と条例制定を歓迎している。

LGBTQ基礎講座を行う「レインボーさいたまの会」代表の加藤岳さん(マレリ株式会社 社内)

7月15日、加藤さんは、埼玉県に本社をおく従業員6万人を超える自動車部品メーカーの労働組合( マレリグループ労働組合連合会 )を対象に、 LGBTQ+ の理解を深めるための研修を行った。加藤さんはLGBTQ+当事者らが職場内外でどのような無理解・偏見にさらされているかを説明するなど、正しい知識と理解の必要性を訴えた。また「(LGBTQ+の諸課題は)時間が掛かる問題ではあるのですが、待っているだけでは何も進みません。みんな”理解が進めば”と仰います。ただ、そうは言うだけで誰かがやってくれるのを待っている。誰も何もしようとしない。だから何も進まない。」と訴えた。参加者の1人は、「自分がどれほど市政に貢献できるかはわかりませんが、積極的に働きかけることが重要だと思いました」と述べた。休憩時間にも加藤さんに質問したり、グループワークでは参加者らが活発に意見を交わす姿も見られた。

従業員70人のタクシー会社が「LGBTQ+フレンドリー企業」を目指す

さいたま市内のタクシー会社『ツルヤ交通』は、今年度からLGBTQ+の取組を始めた。きっかけとなったのは社内におけるカミングアウト。執行役員の橋本優樹さんが本人からカミングアウトを受け、会社としてできることはないか訊いたところ、「何をしてほしい、というわけではないけど、いままでにこういうことがありました。」と、過去の職場で経験したことを話してくれたという。それを聞いた橋本さんは、ツルヤ交通では同じような思いをしてほしくないと感じ、LGBTQ+について学ぶことにした。

「LGBTQ+フレンドリー企業になるまでの奮闘する様子を見てほしい」と橋本さん

LGBTQ+について勉強していることをinstagramで発信するようになってから、多くの当事者から応援や激励のメッセージを受けたり、既に取組をしている企業からアドバイスが届くようになった。また、 instagram での発信が『レインボーさいたまの会』の目に留まり、後日、激励に代表の加藤さんらがツルヤ交通を訪問した。橋本さんは励まされるとともに「中途半端にはできない」という気持ちが強くなった。橋本さんは条例の制定についても「世の中の流れを考えると”そうなるよな”というのが率直な感想です。我々のような中小企業の意識が変われば世の中は大きく変わると思います。」と述べた。

私は社内でカミングアウトしたのが誰なのか、知りません。

そう答えたのは、LGBTQ+社内研修の資料作成を担当したツルヤ交通の門田大輝さん。本人の承諾を得ずに他人にセクシュアリティを暴露することを「アウティング」と呼ぶ。橋本さんは、カミングアウトした本人が誰なのか、また、その人がどういった セクシュアリティであるかを、近しい従業員であっても教えていない。

当事者探しをしないこと

門田さんは、資料作成者でありながら、社内の誰が当事者なのか知ろうとしなかった。セクシュアリティを知っている人に「アウティングさせない」ことも、当事者を危険から守る大事なことと言われている。門田さんは資料を作成しながら、過去に出会ったLGBTQ+かもしれない人たちを思い出した。「そういうことだったのか」と知識と体験とが繋がり、「(もし当事者だったとしたなら)あの時のあの人はツラい思いをしていたんじゃないか。」と考えたという。

ツルヤ交通株式会社 橋本優樹さん

別の日、『レインボーさいたまの会』監修のもと完成した資料を使い、ツルヤ交通として初めてのLGBTQ+研修を行った。橋本さんらが専門家に講師を依頼しなかったのは「自分の言葉で社員のみんなに思いを伝えたかったから」という。LGBTQ+に関わらず傷つくことを言わないこと、LGBTQ+の最低限の知識の獲得、そしてアウティングしないことなどを自分の口から説明した。

研修の後には「良い勉強になった」と声をかけられるなど好評だった。研修に参加した社員のひとりは「いまの世の中で(LGBTQ+研修は)自然なこと。必要なことなので、いい機会になったと思う。」と述べた。ツルヤ交通は、LGBTQ+当事者が多く利用する求人サイトへの求人募集を開始、埼玉県内のLGBTQ+当事者支援団体『レインボーさいたまの会』への入会、通称名での勤務ができるよう準備するなど、LGBTQ+フレンドリー企業としての努力を続けている。

【参考】
埼玉県(埼玉県性の多様性を尊重した社会づくり条例の概要)
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0303/lgbtq/jourei-gaiyou.html

『レインボーさいたまの会』
https://rainbow-saitama.org

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