【緊急公開】「UNSCEAR2020年報告書」で大幅に減った「経口摂取」甲状腺被曝を検証する
小泉純一郎、菅直人両氏ら首相経験者5人が欧州連合(EU)欧州委員会に送った書簡に、東京電力福島第1原発事故の影響で「多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しみ」と表現したことをめぐり、岸田文雄首相は2月2日の衆議院予算委員会で、「福島県の子どもたちに放射線による健康被害が生じているという誤った情報を広め、いわれのない差別や偏見を助長することが懸念されるものであり、適切ではない」と答弁した。また、福島県の内堀雅雄福島県知事も、専門家の見解によると、被曝との因果関係は認められていないとして、元首相らに「科学的知見」に基づいた客観情報発信をするよう求める書簡を出した。
国や県が現在、甲状腺がんを否定している根拠は、福島原発事故に伴う甲状腺被曝が、チェルノブイリに比べてはるかに低いという点だ。だが、福島原発事故では、正確な甲状腺吸収線量は計測されていない。現在、算出されている数値は全て、シミュレーション等に基づいた推計値にすぎない。
政府が特に重視している「原子放射線の影にする国連科学委員会」(UNSCEAR)の2020年報告書も同様である。とくに昨年3月に公表された2020年報告書は、同機関が2013年に公表した報告書に比べ、公衆の曝線線量推計値が大幅に減少しているのが特徴で、中でも食品からの曝線は過剰だったとして、「2013年報告書」では福島県内で一律に32.79 mGyだった経口摂取による甲状腺被曝(乳幼児(1 歳))が、同報告書では、1 から数mGy 程度に大幅に減っている。
経口摂取による被曝量が大幅に減った「2020年報告書」は妥当なのか。OurPlanetTVは、原子力規制庁および福島県などから、1 万5000 枚にのぼる事故初期の放射性測定データや会議録を入手。独自の取材を加え、昨年9月に記事を公開した。
岩波「科学」の論文を無料公開
今回、300人もの甲状腺がん患者が存在するにもかかわらず、国や県が「患者の存在」を否定するかのような見解を表明していることを受け、事故直後の食品の汚染状況を報告した岩波書店「科学2021年9月号」をデジタルデータにて無料公開する。
元首相5人の書簡
欧州委員会委員長ウルズラ・フォン・デア・ライエン様
脱原発・脱炭素は可能です ―EU タクソノミーから原発の除外を―
欧州委員会が、気候変動対策などへの投資を促進するための「EU タクソノミー」に原発も含めようとしていると知り、福島第一原発事故を経験した日本の首相経験者である私たちは大きな衝撃を受けています。
福島第一原発の事故は、米国のスリーマイル島、旧ソ連のチェルノブイリに続き、原発が「安全」ではありえないということを、膨大な犠牲の上に証明しました。そして、私たちはこの10年間、福島での未曾有の悲劇と汚染を目の当たりにしてきました。何十万人という人々が故郷を追われ、広大な農地と牧場が汚染されました。貯蔵不可能な量の汚染水は今も増え続け、多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ、莫大な国富が消え去りました。この過ちをヨーロッパの皆さんに繰り返して欲しくありません。
原発推進は、気候変動から目を背けるのと同様に、未来の世代の生存と存続を脅かす亡国の政策です。私たちは福島第一原発の事故後、国内外の専門家、研究者の調査、研究によって原発が安全でもなく、クリーンでもなく、経済的でもないということを明確に認識しました。私たちは真に持続可能な世界を実現するためには脱原発と脱炭素を同時に進める自然エネルギーの推進しかないと確信します。
そしてEUタクソノミーに原発が含められることは、処分不能の放射性廃棄物と不可避な重大事故によって地球環境と人類の生存を脅かす原発を、あたかも「持続可能な社会」を作るもののごとく世界に喧伝するものです。もし、原発への投資にEUがお墨付きを与えること になれば、委員長の掲げられる欧州版グリーンディール政策の本質とも相反し、EUのみならず世界中の人々の将来に取り返しのつかない巨大な負の遺産を背負わせてしまうことになるでしょう。
福島第一原発事故直後、ドイツのメルケル政権の脱原発への決断は刮目に値するものでした。私たちはその英断を高く評価します。今また、ヨーロッパの皆さんが人類の持続可能な未来を紡ぐ決断をなされんことを切に願います。
脱原発と脱炭素の共存は可能です。
第87・88・89代内閣総理大臣小泉純一郎
第79代内閣総理大臣細川護熙
第94代内閣総理大臣菅直人
第93代内閣総理大臣鳩山由紀夫
第81代内閣総理大臣村山富市
2022年1月27日(順不同)
環境大臣から元首相5人への書簡
小泉純一 様
細川護熙様
菅直人様
鳩山由紀夫様
村山富市様
福島県における放射線の健康影響について
欧州委員会委員長宛て書簡(2022年1月27日付け)において、「多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ」という記載がありますが、この記載は、福島県の子どもに放射線による健康被害が生じているという誤った情報を広め、いわれのない差別や偏見を助長することが懸念されます。
福島県が実施している甲状腺検査により見つかった甲状腺がんについては、福島県の県民健康調査検討委員会やUNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)などの専門家により、現時点では放射線の影響とは考えにくいという趣旨の評価がなされています。
環境省としてはm福島県における放射線の健康影響に関する風評を払拭するため、科学的知見に基づく正しい知識の普及に地道に取り組んできたところです。「多くの子供が甲状腺がんに苦しみ」という表現については、放射線の健康影響に関する差別や偏見につながるおそれがあることから、適切ではないと考えております。
令和4年2月1日
環境大臣 山口壮
福島県知事から元首相5人への書簡
小泉純一 様
細川護熙様
菅直人様
鳩山由紀夫様
村山富市様
2022年1月27日付け欧州委員会委員長宛ての書簡の中で、福島第一原子力発電所の事故において、「多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ」とする記述がなされております。
福島県では、チェルノブイリ原発事故後に明らかになった放射線による健康被害として、放射性ヨウ素の内部被ばくによる小児の甲状腺がんが報告されたことから、福島県の放射性ヨウ素の被ばく線はチェルノブイリに比べて低いとされるものの、子どもたちの甲状腺の状態を把握し、健康を長期に見守ることを目的として、県民健康調査甲状腺検査を実施しております。
専門家専家からなる「県民健康 査」検 委員会及び甲状腺検査評価 会において、放射線被ばくと甲状腺がんの発生の関連性の評価を行い、平成28年3月に先行検査に関し「総合的に判断して、放射線の影響とは考えにくい」と評価され、また、令和元年7月には「現時点において、甲状腺検査本格検査(検査2回目)に発見された甲状腺がんと放射線被ばくの間の関連は認められない」とする見解が示されているところですが、現在も検査を継続するとともに、検査3回目までの結果の解析・評価を行っております。
原発事故から もなく十一年が経過しようとする中、放射線による健康影響などに対する理解は進んでいるものの、県民の中には潜在的な不安が依然として残っており、福島復興のためには、科学的知見に基づいた正確な情報発信が極めて重要であると考えております。
つきましては、福島県の現状について述べられる際は、本県の見解を含めて、国、放射線医学を専門とする医療機関や大学等高等教機関 、国連をはじめとする国際的な科学機関などによる科学的地検に基づき、客観的な発信をお願い申し上げます。
令和4年2月2日
福島県知事内堀