根来祐さん 1972 年岡山県生まれ。自分自身の体験から摂食障害を扱った短編ドキュメンタリー『ゆらゆら』、『疑似恋愛』、『からっぽ』を製作。2001 年には長編「そして彼女は 片目を塞ぐ」が山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映。2009年に祖母・母・自分の3代をテーマとした「Her Stories」を完成。市民メディアセンターMediR・映像ワークショップ講師。
2001年にアワプラの番組に出演してもらった頃とイメージが変わりましたね。
2001年は初の長編映画「そして、彼女は片目を塞ぐ」を作った頃です。ちょうど依存症が治り、何か手に職をつけなければとカメラを学んでいました。当時は、何とか自立しなければという強迫観念的がありましたが、労働運動に関わるようになって、その強迫観念はなくなりました。
労働運動に深く関わるようになったのは2008年です。自分の会社で不当解雇がおき、仲間と「ムービーユニオン」という組合を結成しました。そして、助けてもらった恩返しにと、他の労働問題に関わるようになったのです。
私の参加しているフリーター全般労働組合には200万円以下というような、社会で低く見積もられてきて人たちがやってきます。自尊心も低く、自分には何もできないと思い込んでいる。自分がひどい時には誰かに助けてもらって、回復してきたら、今どん底にある人に寄り添う。特に女性の労働運動は、そういう部分が必要だと思うんですね。
労働運動もピアカウンセリング?
2009年から、キャバクラユニオンという「水商売」の人たちの労働運動に参加しています。この業界は、搾取ビジネス、貧困ビジネス化していいて、労働環境が本当にひどい。様々な費用を天引きされ給与が0円といったケースも。最初は、撮影者として団交に同行していたのですが、いてもたってもいられなくなり、自分も交渉に加わるようになりました。実は私自身も、カメラマンをしながら長い間、水商売をしてきました。若い頃はキャバクラ、最近はクラブです。自分の問題だと感じたのです。
関わった以上、「私がこの運動を担っている」と言ってくれるような人にバトンタッチすることを目指したい。そのためには、一人の女の人に深く向き合って信頼を得ていくことと、運動内部にある格差やヒエラルキーと闘っていくことが大切だと思っています。
表現者、作家として今後の取り組みは
長い間、女性やセクシャルマイノリティなど、多くの個人が、社会や団体のミッションのために踏みつけにされたり、なかったことにされてきました。私は、たとえ、社会的に権威のある人たちに何と言われようと、そのような「いないことにされてきた人たち」のための映画を撮りたいと思っています。
これまで、自分のキャリアアップのために、マイノリティのところにやってきて困った人を探している。そういう取材者もたくさん見てきました。今の価値観の中で評価される女にはなりたくありません。撮影する、されるという壁をどう乗り越えるのかが大切だと思っています。
誰もがカメラを持って撮影しているから、私自身が撮らなくてもいいという時代が来るのが理想です。当事者は社会を変えていく力がある。私はそれをエンパワーする役割を担っていきたいです。