東京都江東区の豊洲市場が開場して1ヶ月が過ぎた。渋滞は解消したが、水産仲卸業者からは「お客さんが減った」という声が上がっている。また、わずか1ヶ月で床に亀裂が生じるなど、施設面の課題も浮上している。
「お客さんが減った」
開場からちょうど1ヶ月を経過した11月12日、豊洲市場を訪れた。ゆりかもめの豊洲市場にもっとも近い飲食街は観光客が列をなしている。2、3時間待ちの寿司店もある。しかし、水産仲卸売り場に降りると築地時代の活気がない。仲卸業者は、「カゴを持って、買いに来るお客さんが減っている」と漏らす。
東京都中央卸売市場が公表している集計によると、豊洲市場に移転して以降の水産物の取扱量は、昨年とほぼ同程度となっている。(図1)決して減ってはいない。しかし、昨年はサンマが不漁だったほか、シケの影響で、例年より入荷量が大幅に少なかったため、昨年との比較は意味がないという声もある。「築地とは全く違う」「決まった常連客は来るけど、フリーのお客さんはめっきり減った。プラスアルファがない」と危機感を募らせる。
(図1)2017年(築地市場)と2018年(豊洲市場)の同時期の取扱量の比較
「目利き文化」の危機
開場してわずか1ヶ月だが今、一番不安視されているのが、築地で培われてきた「目利き」文化の衰退だ。豊洲市場は、水産でも卸と仲卸で建物で分かれており、青果棟も別棟だ。仕入れをするだけで、築地市場の3~4倍の時間がかかるようになってしまった。地のりが悪いこともあって、小売や飲食店の中には、直接、自分で足を運ばず、仕入れ代行業者に頼る業者が増えているという。一つひとつ品物を見て買う客の減少は、「築地ブランド」を支えてきた「目利き」文化の衰退に直結するのではないかと懸念が広がる。
「目利き」がなければ、ブランドは生まれない。東京都は、豊洲市場の赤字を解消するために、5年後には取扱量を1.6倍に増やす目標を掲げているが、今のままでは達成は困難だ。このままでは、年間92億円もの赤字を垂れ流す施設になりかねない。そもそも、入居した業者にとって豊洲市場は、築地時代より、家賃や電気代など全てが値上がりした。このまま売り上げが伸びなければ撤退を余儀なくされる。「期待した売り上げに届いていない」加工食品を販売する業者は肩を落とす。「築地と雰囲気が変わった。買い物の楽しさを感じられないのではないか」
写真:築地場内で食材や道具を販売していた店舗が並ぶ「魚がし横丁」(水産仲卸売り場棟4階)
「床に穴」〜わずか1ヶ月で不具合だらけ
豊洲市場を訪れたその日、仕入れた品物を運び出すエリアの床が陥没した。コンクリートでできた床に亀裂が入り、深さ4センチほどの穴があいた。東京都の担当者は、「ターレ(品物を運ぶ車両)の負荷が集中的にかかったのかもしれない」と推測する。即座にモルタルで補修したが、ここで働く男性は、「1ヶ月でこれはあまりに早い。ターレが引っかかったら危ない」と眉をしかめる。
豊洲市場は年末にかけて、繁忙期を迎える。11月と12月の売り上げが、1年の収支を左右するとも言われるなか、設備の相次ぐ不具合や各足が遠のく現象に、業者からは不安の声が上がっている。