2020年12月4日13時からオンラインで開催された記者会見
放射線防護に関する勧告を行う民間の組織「国際放射線防護委員会(ICRP)」は12月1日から4日までの4日間、福島原発事故からの復興をテーマとした国際会議を開催した。会議では当初、福島事故を受けての新たな防護基準が公表される予定だったが見送られた。「出版が間に合わなかった」からだという。会見によると、素案段階で10ミリシーベルトと示されていた回復期の基準は、多くの批判を受けたため「1ミリから20ミリの真ん中」との表現に修正されたという。
新たな防護基準、公表されず
今回、新たに公表される予定だったのは、大規模原子力災害に伴う防護基準を定めた「パブリケーション146」。ICRPがチェルノブイリ原発事故を受けて2008年に公表していた2つの勧告「パブリケーション109」と「パブリケーション111」を見直したもの。それぞれ、原子力災害に緊急時と回復期の放射線防護について定めていた。
緊急時被ばく状況における人々の防護のための委員会勧告の適用
http://www.icrp.org/docs/P109_Japanese.pdf
Publication 111
原子力事故または放射線緊急事態後の長期汚染地域に居住する人々の防護に対する委員会勧告の適用
http://www.icrp.org/publication.asp?
id=ICRP+Publication+111
この2つの勧告で有名なのが、緊急時は「20ミリシーベルトから100ミリシーベルト」、回復期では「1ミリシーベルトから20ミリシーベルトのううち、できるだけ下方に置くべき」される参考レベルの基準だ。福島第一原発事故でも、この数字が避難指示区域の設定や解除の根拠とされてきた。新たな勧告は、この基準を見直すという。
昨年6月に公表した素案段階では、「1ミリから20ミリのなるべく下方に置く」とされていた回復期の参考レベルについて、「10ミリシーベルトを上回らない」という新たな数値を提示した。このため、多くの市民が反発。パブリックコメントの締め切りが延長されるなどの事態となっていた。
こうした中での今回の国際会議。新たな勧告のお披露目の場と注目されていたが、「出版が間に合わなかった」との理由で公表は見送られた。新たな勧告はまったく公表されず、タスクグループのリーダーを務める甲斐倫明大分看護大教授が、新たな勧告の概略を説明するに止まった。その一方、最終日に発表された「会議宣言」には、新たな勧告に言及している。
同会議のメインビンジュアル。世界地図に日本列島がないのはミスだという。
新たな基準「1から20の真ん中以下」に表現変更
最終日の記者会見で判明したのは、素案に記載されていた「10ミリシーベルト」との数字は削除されたものの、「1ミリから20ミリの真ん中」という表現に変えたというもの。タスクグループのリーダーを務める甲斐倫明大分看護大教授はこう述べた。
「昨年のドラフト段階では10ミリという数値を使ってしたことについては、ICRPが使う数値がたくさん出てくると混乱するとの批判がたくさんございました」「基本的な考え方はかわっておりませんが、ICRPはバンドの中で選択をする、状況の応じて選択をするという考え方をとっております。従いまして、大規模原子力事故の場合には、緊急時が終了し復興に向けては、1から20の真ん中より下の方を中心に。1から10の真ん中というのは、つまり10になりますが、真ん中の下の方で参考ベルを目標にして復旧をすすめていくということを今回のパブリケーションでは述べております」
10ミリとの数字に対する強い反発を受け、わずかに表現が変わった新たな防護基準。国が進める帰還困難区域の避難解除を可能にするためには、1ミリという除染目標が大きな足かせとなっているだけに、この新勧告が必要不可欠ともいえる。新勧告は、12月中にも発行するという。