東京電力福島第1原発事故後に設定された食品中の放射性セシウム基準値をめぐり、食品や土壌の測定活動を行っている市民測定所の全国ネットワーク「みんなのデータサイト」は2月27日から、食品に含まれている放射性物質の濃度基準を緩和しないよう政府に求める署名活動を開始している。自民党や政府が食品の基準値緩和に向けて検討を始めたことを受けたもの。3月9日、記者会見を開いた。
事務局長の小山貴弓さんは会見で「私たちは100ベクレル(Bq)を許容するものではなく低ければ低いほうが良いと思っているが、1000ベクレル(Bq)に引き上げられてしまうのであればせめて100ベクレル(Bq)を死守したい」と訴えた。
今回の署名は、自民党の東日本大震災復興加速化本部が食品の出荷制限の在り方を検討するプロジェクトチームを設置したとの報道を受けて始めたもの。1キログラム当たり100ベクレル(Bq)という現在の基準値が、コーデックス委員会(CODEX)の基準値1000ベクレル(Bq)まで10倍緩和される可能性が高まっていることから、署名活動を行うことにしたという。
小山さんは、「線量の高い食品を出荷できるようにするのが福島の復興につながるという論理は非常におかしい。」と批判。基準値を上げることで風評被害が払拭されるとの主張に対しては、事故当初、暫定基準値として500ベクレル(Bq)という高い基準が採用された上、十分に計測も行われなかったことが、食品の安全性に対する国民の不信感を招いたと分析。再び基準値をあげることで、生産者・出荷する方々にとってもマイナスの影響が大きくなると指摘した。
さらに「現在もまだ原子力緊急事態宣言下にあり、100ベクレルも「がまん値」」と批判。「他の食品の汚染が低くなっている低減しているから、山菜やキノコの少しぐらい高い値のものを食べても大丈夫という論理展開はおかしい。ほとんどの食品の汚染が低減しているということであれば基準値の方を下げるべきであって、あげるという根拠はない」と憤った。
政府は帰還困難区域の避難指示解除に向けて「福島復興再生基本方針」の改訂案を9日、閣議決定した。その中で、「食品等に関する規制等に係る科学的・合理的な見地からの検証等の実施」と題し、食品に含まれる放射性物質の濃度基準について妥当性を検証する意向を盛り込んだ。この基本方針については、3月11日までパブリックコメントが行われている。
複数の原子炉が炉心溶融し、原子炉建屋で水素爆発が発生した東京電力福島第一原子力発電所事故。大量の放射性物質が飛散し、野菜や水道水から放射性ヨウ素や放射性セシウムが検出される事態に至った。
日本政府は2011年3月18日、食品ごとに暫定規制値を設定。放射性ヨウ素については、飲料水が1キログラムあたり300ベクレル(Bq)、野菜類は1 キログラムあたり2000 ベクレル、放射性セシウムについては、飲料水や乳製品は1キログラムあたり200ベクレル(Bq)、野菜や肉類は1 キログラムあたり500 ベクレルと設定した。
その後、厚生労働省は緊急時の基準から、長期的な観点に立った新たな基準に見直しを行い、事故翌年の2012年4月1日から、一般食品は1キログラムあたり100ベクレルとなった。暫定基準値で年5ミリシーベルトだった内部被曝線量は1ミリシーベルトに引き下げられたもの。
線量の高い山菜・きのこ・ジビエ
事故から10年が経ち、多くの食品でセシウムによる汚染線は低減しつつあるが、山菜やきのこ類からは今も高い数値が計測される。「みんなのデータサイト」の調査によると、昨秋、ヤフオク!やメルカリといったインターネットサイトで購入したきのこ134検体を調べたところ、23の検体から基準値を超えるセシウムが検出されたという。
(C)「みんなのデータサイト」
(C)「みんなのデータサイト」
北海道から長野県、山梨県まで15都道県のうち、検査検体数が少なかった東京都や神奈川県、北海道など8都道県では基準値超えのきのこはなかったが、7県の検体から基準値超えのきのこが検出された。その中には、出荷制限区域に含まれていない宮城県気仙沼産や長野県の立科村、斑尾温泉、群馬県の川場村なども含まれており、気仙沼のコウタケは1キログラムあたり1833ベクレル(Bq)あった。
きのこ類の汚染は、時間が経過して土壌の汚染が低下しても、かならずしも、同じように低下しない傾向があるという。出荷制限区域も2012年と比べて増えている。
(C)「みんなのデータサイト」