「福島の裁判所が福島の子どもの命を守らなくてどうするんの!」
「裁判官、恥をしれ」
福島地裁の前は、怒号と嗚咽に包まれた。
東京電力福島第一原子量事故をめぐり、福島県内の子どもと保護者が、事故後に適切な情報の提供がおこなわれず、無用の被曝を受けたなどとして、国と福島県を訴えていた裁判(子ども脱被曝裁判)で、福島地方裁判所(遠藤東路裁判長)は3月1日、原告の訴えを全て退けた。
安全な地域での教育認めず
この裁判は、福島県内の子どもとその保護者が約170人が、国、県、市町村を訴えているもので、初期被曝の責任と被ばくをせず教育を受ける権利の確認の2つの内容が争われていた。このうち、福島県内の小・中学生14人が、年間1ミリシーベルトを下回る地域での教育を求めた訴えについて裁判所は、低線量被ばくや不溶性セシウムによる内部被ばくのリスクを否定はしなかったものの、「直ちに不合理とはいえない」と判断。原告の生命や身に対する違法な侵害があるとは認められないと、原告の訴えを退けた。
また福島県内の子どもと保護者158人が、国と福島県に初期被曝の責任を求めて、一人あたり10万円の損害賠償を請求していた裁判についても、裁判所は訴えを棄却。「SPEEDI」の情報を正しく提供しなかったことや、安定ヨウ素剤を服用させなかったなどについて、事実関係は認めながらも、「違法であったとは言えない」と判断した。
福島地方裁判所に入廷する原告と弁護団
山下俊一氏の発言、「意図的ではない」
この裁判では、事故当時、「100ミリシーベルト以下は大丈夫」「ニコニコしていれば放射能は来ない」などと講演して批判を招いた山下俊一長崎大学教授(当時)が法廷に立ち証人。当時の発言は問題だったとの認識を示したが、リスクコミュニケーションとして仕方なかったと釈明していた。
これについて原告は、「放射線の健康被害に関する科学的に著しく反する内容であり、混乱を避け福島県の経済復興を最優先課題とする発言」だと主張したが、裁判所はこれを否定。「一部は修正し、積極的に誤解を与えようとする意図はうかがわれない」と判断し、山下氏をアドバイザーに任命し、講演をさせた福島県に違法性はないとした。
判決後、福島司法裁判所の前で肩を抱き合う原告と支援者
涙にくれる地裁前
原発事故後、全国で数々の損害賠償裁判が起きている中で、放射線の感受性が高いとされる子どもを原告とし、被曝問題に正面から取り組んだのは、この裁判が唯一となる。訴訟の過程で原告は、福島原発事故では、従来の原子力事故ではほとんど見られなかった不溶性微粒子(セシウムボール)が数多く観測されていると指摘。原告の通う学校周辺地域の環境を独自調査し、少量の吸引でも莫大な内部被ばくを起こす可能性があると主張してきた。しかし、裁判所は、現在まで研究中であるなどとして、「予防原則」の立場に立つ判決を下さなかった。
主文を読み上げると、わずか1分ほどで法廷を後にした遠藤裁判長。判決理由を一切述べないまま、裁判官が退廷したため、原告も弁護人も呆然と立ち尽くしていた。
原告代表の今野寿美雄さんらが、「不当判決」「子どもの未来を閉ざす」と書かれた垂れ幕を広げると、裁判所前は怒号に包まれ、肩を寄せ合って号泣する支援者もいた。判決について今野さんは「納得できるものは一つもない。不当判決そのものだ」と控訴する意向を表明した。
判決後の記者会見に並ぶ弁護団