この意見交換会は、放射線の影響に不安を抱く福島県民への情報共有をはかろうと、福島県と環境省が主催しているもので、今年度は3回目となる。今回のテーマは「”甲状腺”を考える」。福島県県民健康管理調査の甲状腺検査を統括している福島県立医科大学の鈴木真一教授と環境疫学の専門で、公害問題になどにも詳しい岡山大学の津田敏秀教授がそれぞれ、見解を発表した。
甲状腺がんの多発を懸念
その上で、津田氏は、10ミリシーベルトに満たない低線量被ばくでもガンが有意にふえているとの論文を複数紹介。自然放射線であっても被曝量がふえると白血病が増加するとのイギリスの研究データなどを示しながら、「100ミリシーベルト以下でも有意にガンがふえる」と主張した。
また、県民健康調査で、現在までに見つかっている小児甲状腺ガンの数を疫学的な観点で分析するとがんの自覚症状が出るまでの有病期間を65年と当てはめても有意に増加していると指摘した。津田教授は「スクリーニング効果という理由だけでは、説明がつかないほど多発している」として、福島県外での健康診断や資料資源の整など、何らかの対策が必要であると述べた。
「100ミリ以下はがん増えない」誤り〜全会一致
こうした津田教授のプレゼンに対し,各市町村のアドバイザーからは反発する意見が殺到。「100ミリ以下の被曝影響」や「甲状腺の多発」について違和感を抱く委員から次々に質問が飛んだ
その中で、委員の見解が一致したのは、「100ミリシーベルト以下でもがんの増加は起きる」という点だ。福島県甲状腺評価部会の委員で広島赤十字・原爆病院 の小児科医、西美和氏が、「100ミリシーベルト以下と言っても幅が広い。1~2ミリシーベルトと80~90ミリシーベルの被ばくを同等に考えていいのか。」と異論を呈したほか、津田教授が示した論文について、「偏っている」などのコメントが相次いだものの、広野町アドバイザーで福島工業高等専門学校コミュニケーション情報学科の芥川一則教授が「この委員会で100ミリ以下でがんが発生しないという認識されている先生はいない」と主張。福島県のアドバイザーで、東北大学大学院医学系研究科の細井義夫教授は、「放射線生物学が専門だが、放射線生物学をやっている研究者で100ミリ以下はがんが増えないという人はいない」と指摘した上で「一般のマスコミで取り上げられる専門家というのが、本当に専門家なのか。放射線の専門家じゃない人が言っているケースがある」と苦言を呈した。
さらに「専門家と称する方で、100ミリシーベルト以下でガンは出ないということを堂々と述べている方は過去に何人もいるし、そういう論文もある。非常に人を惑わすような、嘘を言っておられる方もいる。」といった意見まで飛び出した。
このほか、甲状腺の多発については、有病期間や被ばく量などをめぐって議論が激化。チェルノブイリ事故と比べて、エコーの検査技術もかなり良くなっている。当時のデータを用いて比較するのはムリがある。」などとして、甲状腺がんが「多発」している可能性があると主張する津田教授の見解を否定する意見が相次いだ。