写真提供:ICRP 会場での写真撮影は禁じられた
国際放射線防護委員会(ICRP)と量子科学技術研究開発機構は25日、IICRPが策定した新たな勧告「大規模原子力事故時の人と環境の放射線防護」をめぐり、都内でシンポジウムを開催した。草案作成に関与した甲斐倫明座長は、「10ミリシーベルト」とされている回復期の参考値について「特に根拠はない」と回答した。
25日の締め切りでパブリックコメントを募集していた同勧告は、原発事故後の緊急時と回復期の放射線防護基準を定めた「ICRP Publications 109」「ICRP Publications 111」の2つの内容を見直すもの。福島原発事故の経験をもとに、100から20ミリシーベルトとされていた緊急時の基準を100ミリに、20ミリから1ミリシーベルトと定めていた回復期の基準は10ミリシーベルトへ変更するとしている。
シンポジウムではまず、同報告書の草案を策定してきた甲斐倫明氏が同報告書の概要を説明。新たな勧告では、事故後の緊急時と回復過程を3つの時期に分けて論じているとした上で、大規模な原発事故時の被曝防護は、社会や経済的な影響が大きいことから、防護策を講じる際には、これらを考慮する必要があると強調した。
会場からは、国際原子力機関(IAEA)で基準策定等に関与したことがある技術者が質問に立ち、「10ミリシーベルトと数字を示すにはそれなりに根拠が必要だ。IAEAではそれを示すことができず断念した」と10ミリシーベルトの根拠をただしたが、甲斐氏は「特に根拠はない」と回答した。
座長を務める本間敏光氏(左)と甲斐倫明氏(右)写真提供:ICRP
また防護の「最適化」をめぐり、様々な意見が沸騰。参考レベルを超えた人から優先的に防護策を講じる「最適化」の考え方に賛同する声があがる一方、原子力市民委員会の村上正子さんは、現存被曝状況に置かれる以上、事故前よりも高い被曝を強いられると指摘。そこから抜け出せることが必要ではないかと批判した。
また国際環境NGO「FoEジャパン」の深草亜悠美さんは、勧告に記載されている「正当化」や「最適化」は、立場によって異なると指摘。政府の経済利益を優先するのではなく、人々の放射線防護を優先すべきだと述べた。
この後、チェルノブイリや福島で被曝防護や健康問題に取り組む研究者らが登壇。福島での被曝線量はチェルノブイリに比べて極めて低いなどとする報告が相次いだ。内閣府の原子力被災者生活支援チームの野口康成氏は、避難指示解除に向けて、様々な取り組みを展開していると強調。避難指示の解除に伴い住宅支援の打ち切りで、生活が困窮している住民があるとの指摘に対し、野口氏は、「避難者の扱いは平等であるべきだ」として、避難指示が出されていない住民の住宅支援策を講じる考えがないことを強調した。
写真提供:ICRP
政府とICRPとの関係あいまい
今回、新たな勧告を策定したのは、福島原発事故後の2013年に、ICRP内に設置されたタスクグループ93(TG93)。放射線審議会委委員の甲斐倫明氏が座長を、原子力規制庁の本間俊充氏が副座長を努める。ICRPに関連する会議の出張費は、原子力規制庁から出ている。
規制庁職員の本間氏はこの日、ICRPのTG93メンバーとしてシンポの座長を務めたが、あくまでも個人的なボランティアであると主張する。しかし規制庁に休暇届けは提出しておらず、外勤扱いになっているという。一方、新たな勧告案の国内法制の取り込みをどう考えるのか、規制庁としての見解を求められた際には、回答を避けた。
ICRPから勧告を受ける機関の職員や委員が、ICRPの勧告策定に関与し、その猶予や経費を政府が負担していることに、利益相反であるとの声があがっている。
新勧告草案の概要を説明する甲斐氏
パブコメは300件超
ICRPが報告書の草案を公表した、パブリックコメントの募集を解したのは今年6月末。8月中旬以降、市民団体らが日本語訳の公表や日本語でのパブコメの受け付け、福島での説明会の開催やパブコメの受付期限の延長を求めてきた。その結果、ICRP事務局は、日本語のパブコメ受け付けに応じたほか、当初は9月25日だった締め切りを期、日本でシンポジウムを開催する10月25日に延期していた。この結果、日本の一般市民を含め、300にのぼる意見が寄せられた。寄せられた意見を踏まえ、早期に勧告を取りまとめたいとしている。
「大規模原子力事故時の人と環境の放射線防護」案
Radiological Protection of People and the Environment in the Event of a Large Nuclear Accident
報告書とパブリックコメント募集のページ
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