福島第一原発事故
2019/09/20 - 02:35

東電会長ら旧経営陣3人に無罪判決〜原発事故

東京電力福島第1原発事故をめぐり、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電旧経営陣の勝俣恒久元会長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長の3被告に対し、東京地裁(永渕健一裁判長)は19日、いずれも無罪(求刑・禁錮5年)の判決を言い渡した。永渕健一裁判長が「いずれも無罪」と述べると、法廷内では「えー」との声があがり、遺族は深くうなだれた。

3人は、原発の主要施設の敷地の高さ(約10メートル)を上回る津波が来ると予想できたのに対策を怠って事故を招き、原発から4・5キロ離れた大熊町の双葉病院と介護老人保健施設・ドーヴィル双葉の入院患者ら44人らを死亡させたなどとして強制起訴された。

判決では、3人が10メートルを超す津波の可能性を知ったのは、武藤被告が2008年6月、武黒被告が同年8月、勝俣被告は2009年2月だったとしたうえで、この時点から津波の対策工事を始めても、東日本大震災までには間に合わなかった可能性が高かったと指摘。事故を防ぐには2011年3月6日までに原発運転措置を講じるほかなかったが、ライフラインや地域社会に影響を与える原発を停止を決断するほど、津波が起きる科学的な信頼性や合理性はなかったと結論づけた。

原発運転、絶対的安全性の確保を前提にしていない

午後1時15分から始まった判決文の読み上げ。永渕裁判長は、「巨大な津波の発生を予測できる可能性があったとは認められない」として、これまで指定弁護士が、証拠に基づいて主張してきた数々の主張をことごとく退けた。

また、東京電力の取ってきた本件発電所の安全対策に関する方針や対応について、行政機関や専門家も含め、東電の外部からこれを明確に否定したり、再考を促したりする意見が出たという事実も窺われない」と述べ、当時の社会通念では、原発の運転は、「絶対的安全性の確保を前提にしていなかった」と結論づけた。

指定弁護士は、東電社内の担当部署が2008年1月頃までには、政府の地震本部が2002年に公表していた「長期評価」に基づき、太平洋海溝沿いのどこでも津波が起きる可能性を前提にとした津波対応を検討していたことを指摘。2009年2月の「御前会議」でも津波対策の方針が提案されていたとしていたが、判決ではもととなる証言の信憑性が薄いと否定。さらに政府の機関でもある地震本部の公表した「長期評価」をも信頼にたるほどの合理性はないとした。

国に忖度した判決〜指定弁護士が批判

検察官役の指定弁護士を務めた石田省三郎弁護士らは閉廷後、記者会見を行い、「国の原子力行政に忖度(そんたく)した判決だ」と批判した。とくに、津波対策の根拠だった政府機関の「長期評価」の信頼性までをも否定したことについて、「科学的な問題に、裁判所が踏み込んだ介入をして果たしていいのか」と声を震わせた。今後、控訴すべきか検討するという。

司法の歴史に大きな汚点を残す

また2012年6月に、東電の元経営陣らを告訴・告発し、原発事故の刑事責任を追及してきた「福島原発告訴団」の団長・武藤類子さんは判決について「残念の一言に尽きる」「あれだけ裁判の中でたくさんの証言や証拠がありながら、それでも罪に問えないのかという思い。裁判所は間違った判断をした。裁判官は福島の被害に真摯に向き合ったのだろうか。」と福島の現場検証を棄却した経緯を問題視。指定弁護士に行使して欲しいと訴えた。

また同じく告訴団のメンバーで、被害者代理人として全ての公判に参加してきた海渡雄一弁護士は、「これほどひどい判決が出るとは予想していなかった。司法の歴史に大きな汚点を残すもの。絶対に取り消されるべきだ」と強く批判した。また、東電が10メートルを超える津波高を想定しながら、国や県にも隠蔽し続けた事実を無視していると指摘。「裁判所の証拠の認定は間違っている。」「この事件をこのまま終わらせるわけにはいかな。正義にかなった判決を得たい」と語気を強めた。

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