福島県の甲状腺検査で、一体、何人の甲状腺がんが見つかったのか?
その全体像を把握する手がかりの一つである「甲状腺検査サポート事業」をめぐり、県は2015年の事業開始から3年間、収集した患者の診療情報について、集計も分析も一切行っていなかったことが、OurPlanetTVの取材で分かった。同事業は、「診療情報の収集を行い、得られた情報を集計・分析し、その結果を県民に還元する」と目的に掲げているが、患者から集めた診療情報は、職員が個人的に中身を見るだけで、集計したり検討したことはなかったという。
甲状腺サポート事業は、一般診療となった甲状腺がん患者等の病気の状態を把握する、有効な手段の一つとされる中、県が、甲状腺がんの患者から高度な個人情報を収集しながら、その書類をたなざらししていたことは、県民から批判を浴びそうだ。
事業開始前の事業案(2014年10月作成)傍線OurPlanetTV
甲状腺検査サポート事業は、甲状腺検査の2次検査以降が一般の保険診療となっていることから、「診療情報の収集に支障が生じる」との理由で2015年にスタートした。事業の対象となるのは、2次検査で甲状腺がんの疑いなどがある患者で、医療費の助成を受けるためには、申請書とともに、医療機関が記入した診療情報を提出することになっている。
しかし、OurPlanetTVが県の公文書開示請求したところ、臨床情報を集計したデータが存在しないことが判明。当初は、福島県立医大がデータを集約していると説明していたが、医大とは契約関係が存在しないことを指摘したところ一転し、2015年7月の事業開始から2017年度までの2年半、患者の診療情報について一切、集計は行なっておらず、昨年6月に開催された第27回「県民健康調査」検討委員会で報告した文書以上のデータは存在しないと釈明した。理由や今後の方針について尋ねたところ、県民健康調査課の鈴木陽一課長は「特にコメントすることはない」と回答を拒否している。
現在の「サポート事業」の要綱(左) 申請時に提出する同意書(右)
申請時に提出する診療情報(全てクリックすると大きくなります)
環境省も活用を要望
甲状腺サポート事業をめぐっては、「経過観察」中の患者がその後、甲状腺がんと診断されたケースが公表されているデータから漏れている問題が議論された昨年6月5日の「県民健康調査」検討委員会席上で、環境省の梅田珠実環境保健部長が、甲状腺検査サポート事業を活用すれば、県外の医療機関の臨床データも把握し、活用できると指摘。現在把握できない「経過観察」後に甲状腺がんと診断されたケースにも、同制度を利用するべきと述べていた。
この際、鈴木課長はサポート事業で医療費を助成した患者の中には、「保険診療に移行した後に甲状腺がんと診断された」などの理由で、現在公表されているデータ以外の患者が3人いると説明していた。
使い勝手悪く、交付実績は予算の15%
甲状腺検査サポート事業は、当初、福島県立医大に委託する予定だったが方針を転換。現在、医療・介護関連の大手ニチイ学館が受託し、案内書の発送から申請書の受理、問い合わせ電話の対応、決定通知書の発送などを担っている。
初年度の予算は約9200万円だったが、申請方法が煩雑なために申請数が延びず、初年度の支出は1400万円と予算比15%に止まった。個人への医療費助成額はわずか780万円、一方、ニチイ学館への業務委託費は450万円だった。また事業2年目の2016年度は、1830万円ほどの予算に対し、支出額は約1000万円。交付した医療費助成額は450万円に止まり、業務委託費が570万円と支援金を上回った。
長く治療を継続している患者にとって、毎回、申請をするたびに、5000円もの費用をかけて診療情報を取得する必要がある同事業は、「手続きが煩雑」だと評判が悪い。当初の計画より、大幅に申請数が少ないのは、使い勝手の悪さが影響している。2015年と16年の交付実績をもとに試算すると、手術を受けている人でさえ、申請は7割に止まっている。
しかも、電話の対応や受付は全て民間業者が行なっているため、県や医療機関とのやりとりに時間がかかり、実際に支援金が支払われるのは申請から2〜3ヶ月後という。こうしたことから、医療機関の窓口で医療証を提示すれば医療費が減免される制度に変えて欲しいと訴える患者もいる。
毎回、医療機関に5000円支払い、高度な個人情報である診療情報を提出させている以上、データは早急に集計し、県民に還元する必要がある。同時に、患者の立場を最優先にした、使い勝手の良い制度に見直す必要がある。