チェルノブイリ原発事故から32年目を迎えた26日、永田町の衆議院議員会館で、超党派の国会議員らでつくる「原発ゼロの会」が、福島県が実施している「県民健康調査」を検証する会議を開いた。会議では甲状腺がんの患者数が把握できていない問題などに指摘が相次ぎ、原発事故に伴う健康管理を法制化すべきだとの声が上がった。
「原発ゼロの会」は2012年3月に発足した超党派の議員連盟で、エネルギー政策などに関して定期的に会議を開催してきた。この日のテーマは、「原発事故後の健康管理〜チェルノブイリから考える福島第一原発」。超党派の国会議員のほか、福島県から県議会議員や患者支援者らも駆けつけた。
まず獨協医科大学の木村真三准教授が基調講演を行い、ベラルーシやウクライナの政府の対応について説明。ベラルーシで最も汚染が低い西部のブレスト州で、現在になって甲状腺がんが多発しているとして、今も研究調査が続けらていると報告した。またベラルーシでは移動検査体制が充実しており、学校巡回検査などにより、98%に上る検診率を誇ることなどを解説した。
続けて福島県の「甲状腺検査」について、岩波書店の田中太郎「科学」編集長が「過剰診断」論が広がっているが、実際には、甲状腺がん患者の数や症例が把握できない状況にあることを説明。その一方で、福島県立医大が小児甲状腺がんの「症例データベース」や「組織バンク」を構築しており、検査費用が直接、検査に関与していない医師らの給与に充てられているなど、検査の歪みを指摘した。
健康管理の法律が必要
原子力市民委員会の海渡雄一弁護士は、原子力市民委員会が20日に国と福島県に提出した意見書について説明。検査の縮小を重ねていくことで、結果として、因果関係の立証ができなくなると懸念を表明した。また県民を対象としたアンケート調査では、検査の継続を望んでいる人が9割の上ると指摘。新たな立法を制定し、甲状腺を含めた放射線との因果関係が疑われる病気に対象を広げるとともに、検査地域も拡張していくべきと提言した。また学校検査を継続し、受診率の向上をはかるべきと指摘した。
2012年に「健康調査等事業の実施等に関する法案」を提出していた加藤修一前参議院議員(公明党)が、当時の状況を説明。同法案は公明党で立案し、自民党とともに国会に提出たが、委員会に付託されなかったという。同法案は、法定受託事務であるため国の責任が重く、また健康調査の範囲も福島県に限定いないものであることなどを解説した。加藤前議員は「今、この法案が発掘されることはある種、残念。しかし今後、国会で議論を深めて欲しい」と述べた。
福島から切実な訴え
福島県の古市三久県議会議員が圏内の状況を説明。甲状腺検査の4巡目の検査目的から「検査の現時点での甲状腺検査の状態を把握する」という削除された問題を指摘。撤回されたものの、基本的な考え方を変えようしているのではないか。甲状腺検査はデリケートな問題なので、県が福島県立医大に丸投げしている実態があると報告した。
また患者の把握について、福島県立医大が小児甲状腺がんの「症例データベース」をすでに構築しているのだから、1時間もあれば把握は可能なはずと苦言を呈した。さらに、甲状腺検査サポート事業について、指定された病院で2次検査を受けないとサポート事業の対象外となっている問題ついて、「県民のための仕組みになっていない。」「同じ福島県民を差別せずに医療費を支給してほしい」「がんの情報をもらった見返りにお金を払うという考えはやめて欲しい」と訴えた。
さらに「甲状腺がん支援グループあじさいの会」の千葉親子さんが、「甲状腺がんは予後が悪く死に至る病気ではない」などという報道が続くと、「潜在がんだったのか」と嘆く母親もいる。実際には軽いものだけではなく、再発や遠隔転移例があり、不安を抱えながら治療にあたっている実態を訴えた。
川田龍平議員(立憲民主党)は、2014年に子ども被災者支援議連が、同法13条に基づいた法案の骨子を策定していた事実を紹介。今後、当時の骨子を生かして、健康調査の対象地域や対象疾患を広げていく必要があると述べた。
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