東京電力は11月30日、避難指示区域だった双葉郡富岡町に「廃炉資料館」をオープンする。福島第二原子力発電所をPRする目的で建設された「エネルギー館」を全面リニューアルしたもの。同社は、東京五輪までに、福島第一原発への見学者2万人達成を目指しており、廃炉資料館は見学者の集合場所となる。
廃炉資料館は、「福島原発事故」と「廃炉」に関する2つの展示フロアからなる。入館するとまず案内されるのが、「福島原発事故」のフロアだ。円形の大型シアターに入ると、東京電力の嶋津康館長が、福島第一原発事故について謝罪し映像の上映を始めた。内容は「福島原発事故」から現在までの経過を紹介。東日本大震災に伴う津波の来襲によって全電源が喪失し、炉心溶融や水素爆発が起きた経過を追う生々しい映像が映し出された。
また、事故当時の中央制御室を再現する映像も。東日本大震災が発生した3月11日午後14時46分から1号機が爆発する12日15時36分までのまる1日を再現。福島第二原発にあるシミュレータを活用して撮影。演じているのは役者ではなく、すべて、福島第二原発で働いている社員だという。
この他、地震発生から電源復旧までの11日間を表わす拡張現実(AR)など、最新の映像技術が駆使された展示が並ぶ。しかし、原発事故当時、生々しい事故対応の様子を記録した「テレビ会議」の映像は展示されていない。
「廃炉」のフロアでは、廃炉に向けた行程を紹介。廃炉作業がどこまで進んでいるかを確認できるパネルが設置されているほか、放射線量の高い場所で事故処理にあたる廃炉ロボットなども展示されている。展示内容は、廃炉作業の進捗に合わせて、半年ごとに見直を行うという。
館長は広報畑を歩み、節電を訴える東電のキャラクター「でんこちゃん」の発案にも携わった島津康さん。開館の狙いについて、「帰還を考えている地域の皆様や、次世代層に廃炉の現状を分かっていただきたい」と説明する。2020年には、福島県が双葉町に開設するアーカイブ拠点施設とも連携するという。事故によって生じたマイナスイメージを払拭し、帰還促進につなげたい考えだ。
もともと「エネルギー館」は2010年、11年ぶりに全面リニューアルしている。1階では、子どもたちがゲーム感覚で原子力発電所について学べるようになっていた。2階では福島第二原発のCG映像を、大型スクリーンと、床面の円形スクリーンにシンクロさせて上映。原発内部に「バーチャルトリップ(体感)」できることをアピールしていた。
「廃炉資料館」は、日本航空(JAL)の「安全啓発センター」を参考にしたという。同館は、日航機墜落事故の風化防止のために開設。新入社員は全員、ここで研修を受け、被害者遺族のインタビューを収録したビデオも視聴する。しかし、「廃炉資料館」には被害者に関する展示はなく、社員研修などの使用が検討されているが、具体的な計画は決まっていない。
福島県三春町にある「福島県環境創造センター交流棟「コミュタン福島」」とキエフにある「チェルノブイリ博物館」の展示内容を比較する研究も行っている福島大学の後藤忍准教授は、「反省の姿勢は感じられる」とする一方、「原子力災害ならではの関連死に関する情報もなく、肝心のところには触れていない。言い訳をして、今後も原発を続けたいという内容だった」と苦言を呈した。