東京電力福島第一原発事故で局地的に放射線量が高くなった「特定避難勧奨地点」の指定解除は違法だとして、福島県南相馬市の住民らが国を訴えている裁判で28日、東京地裁で初の口頭弁論が行われた。年間20ミリシーベルトという国の避難基準の正当性を問う初の訴訟であるだけに関心は高く、150人に上る傍聴者がつめかけた。
国を訴えているのは、福島第一原発事故で「特定避難勧奨地点」に指定された南相馬の地域住民206世帯808人。昨年12月に指定が解除されたものの、放射線量は十分に下がっておらず、帰還すれば放射線による健康影響を受けながらの生活を強いられると主張し、解除の取り消しと、一人あたり10万円の損害賠償を求めている。(原告の訴状)
原告の代理人の福田建治弁護士は、この年間20ミリシーベルト基準は、原発労働者など放射線業務従事者に適用される被爆限度に比べてもあまりに高すぎると指摘。低線量被曝による影響については未解明なことが多い上、万が一、健康影響が発生すれば、その因果関係をめぐる長い法廷闘争が必要となるとして、将来に禍根を残さないためにも裁判所の介入が必要であると訴えた。(代理人の陳述要旨)
これに対し、国は、特定避難勧奨地点の解除は行政処分に当たらないと反論。「特定避難勧奨地点の設定や解除は、年間の積算放射線量が20ミリシーベルトを超えると推定されることなどやその地点として設定すべき実体がなくなったことの通知、または情報提供に相当するものだ」と主張した。(国の答弁書)
この日、原告2人も意見を陳述。自然豊かだった地域の暮らしが原発事故によって大きく変わってしまった状況や指定解除後も避難生活を続けている実情を訴えた。高倉行政区長の菅野秀一さんは、地域に子どもが一人もいなくなっていると説明。「若い世帯が戻らないのは、宅地の除染が済んでも、生活圏には無数のマイクロホットスポットがあることを知っているから」であると述べた。(菅野秀一さんの陳述要旨)
また、事故当時、小学生2人と生後11ヶ月の子ども3人を育てている30代の女性は、原発事故以降、小さな子どもを守るために、避難先を転々と変えざるを得なかったこれまでの経緯を説明。現在は南相馬市の仮設住宅で生活しているものの、賠償の打ち切りにより生活が圧迫されている状況を切々を語った。この日は、南相馬から東京地裁まで駆けつけた原告33人。意見陳述の間、原告席からは時折、涙をすする音がした。(女性の陳述要旨)
被告である政府は、20ミリシーベルトの基準をめぐる準備書面の作成には省庁間の調整に時間がかかると主張。年明けの期日を指定したため、次回の口頭弁論は来年1月13日14時と決まった。
南相馬・避難20ミリシーベルト基準撤回訴訟支援の会
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第1回口頭弁論期日 裁判提出書類(2015年9月28日)
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