福島県の甲状腺検査をめぐり、福島県立医科大(以下、福島医大)が過去、検討委員会に報告した「症例報告」に通常では起こりえない誤りがあることがOurPlanet-TVの取材で分かった。医大は調査を急いでいるが、1週間を経ても分からないという。症例データベースが「二重帳簿化」していることが原因ではないかとのOurPlanetTVの指摘に対し、意図的な情報操作はしていないと回答している。
矛盾が生じているのが、第20回検討委員会に提出された「手術の適応症例について(※1)」という文書と第8回甲状腺評価部会に提出された鈴木眞一先生の発表スライド(※2)の2つの文書。第20回検討委員会に提出された文書によると、2015年3月末までに手術を実施した104人のうち、97人が福島医大で手術をし、残り7人が他施設で手術をしていると報告していたが、第8回甲状腺評価部会に提出された文書では、2016年3月31日までに手術をした132人のうち、福島医大で126、他施設6例手術をしたと報告。本来、減るはずのない「他施設での手術数」が減少していた。
※1 第20回検討委員会資料「手術の適応症例について」
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/129308.pdf
※2 第8回甲状腺評価部会資料「手術の適応症例について」
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/244314.pdf
これらの「症例報告」は学会などで発表してきたデータ(※3)を検討委員会用にまとめたもので、今年1月にThyroid誌に掲載された山下俊一主著の論文「Lessons from Fukushima: Latest Findings of Thyroid Cancer After the Fukushima Nuclear Power Plant Accident(※4)」にもこのデータが使われていた。
※3 Childhood and adolescent thyroid cancer after the Fukushima NPP accident
http://fmu-global.jp/download/shinichi-suzuki/?wpdmdl=2047
動画「福島甲状腺がんの報告」鈴木眞一教授~第5回国際専門家会議
※4 Lessons from Fukushima: Latest Findings of Thyroid Cancer After the Fukushima Nuclear Power Plant Accident
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5770131/
症例報告には、患者の年齢や腫瘍径、リンパ節転移の割合など、手術な症例に関する人数が記載されているだけでなく、平均値や割合などもあり、「福島医大の症例数」が増減するとしたら、これまでの研究に関する全ての信頼性が失われる恐れもある。一方、第20回検討委員会に提出された文書に記載された「他施設での手術数」に間違えがあるとしたら、そもそも手術数の公表そのものに、誤りがあったことになり、検討委員会での公表データが誤っていたことになる。
「二重帳簿化」が原因か?
鈴木教授ら研究グループは、甲状腺検査で甲状腺がん手術を受けた患者のDNS解析を進めるため、健康調査とは別に、文科省の科学研究費助成を受けて「小児甲状腺癌の分子生物学的特性の解明」(※5)という研究を実施している。鈴木教授らはその研究報告書に、鈴木腫瘍径、年齢、リンパ節転移の有無、病理組織学的所見などの一元的に管理する「症例データベース」を構築していると記載。「2016年3月現在、福島県立医科大学附属病院で手術を施行した症例は、128例であった」と研究成果を報告しており、ここでも症例数に差異が生じている。
※5 科研費研究成果報告書「小児甲状腺癌の分子生物学的特性の解明」
https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-25461989/25461989seika.pdf
鈴木教授が構築している小児甲状腺がん患者の「症例データベース」は、患者のDNA解析を目的として研究のために設置されており、2次検査で悪性となった患者だけでなく、一般診療を経て手術に至った患者の情報も登録している。このため、検討委員会や学会発表や論文などに症例数を公表する際は、それらの患者を除外する作業を経るため、その過程でミスが生じたと見られる。
7月8日に開催された「甲状腺評価部会」で、医大で実施された手術のうち、集計外の手術数が公表されたため、新たな追加症例は生じない。しかし、「症例データベース」で、小児・若年甲状腺がん手術の蓄積が行われていることは確実で、わざわざ新たな研究計画を作成する必要があったのか検証が必要だ。また、現在の甲状腺検査では、甲状腺がんの数を少なく見せかけるために、2次検査での「穿刺細胞診」を恣意的に避けることできるため、今回、公表された11例のうち、2次検査を受けている7人については、2次検査から手術実施まで、どの程度の経過観察期間があったのか、公表することが求められる。
OurPlanetTVは7月30日、福島医大の広報室を通じて、データの誤りを指摘。鈴木眞一教授による説明を求めたが、「鈴木眞一教授は診察や手術で多忙なため面会は難しい」と回答。8月1日に本記事を送付して確認を求めたところ、2つの文書のどちらの数字が誤っているのか「まだ確定的なことをお答えできる状況にない」とした上で、「医大が意図的な操作をしていることはありません。」としている。