東京電力福島第一原子力発電所事故に伴い、福島県民を対象に実施されいる「県民健康調査」について、福島県立医大は当初、国が指定した避難指示区域などの住民約17万人のみを健康調査の対象と設定し、喜多方市や会津若松市は疫学的な比較を行う対照地区と考えていたことが、OurPlanetTVが入手した資料でわかった。
OurPlanetTVが入手したのは、福島県が県民健康管理調査の検討会を開催する以前の「実施計画案」。2011年5月9日、5月12日、5月13日の日付の3種類があり、それぞれ少しずつ修正されている。公衆衛生が専門で、福島県立医大の放射線医学県民健康管理センター副センター長 安村誠司教授が作成した。
まだ福島県民健康管理調査の実施の枠組みが決まる以前の5月9日に作成された実施計画によると、目的には「比較的高い線量の計測された地域に住んでいる住民、及び避難した住民の放射線量の測定評価を行い、安全であることを確認する」ことと記載。対象は「国が指定した地域(避難区域、緊急時避難準備区域、および計画的避難区域)に住民票のある約17万人の住民のうち、避難先が把握可能な9万8000人としている。また、対照地域の設定が必要だとして、例として喜多方市(52,232人)と会津若松市(125,910人)を挙げていた。
県民健康調査をめぐっては、詳細調査として36万人の子どもを対象とした甲状腺検査が実施されているが、先月2日に開催された検討委員会の「甲状腺評価部会」で、疫学を専門とする医師から、現在の検査デザインでは事故との因果関係を解明することはできないと指摘。甲状腺検査を担当する福島医科大の鈴木真一教授は、「会津地域をコントロール群(対照地区)に設定するという考え方もある」と回答していた。
当初、喜多方市や会津若松市を対照地域にしていたことについて、福島医科大は「科学的な評価を行うために、当初は比較できる対象地域の設定が必要 であると考えた」と回答。県との調整で全県での実施となったため、「コントロール群としての対象地域の設定を行わなくても、調査対象地域の住民の方の中で線量の高低にバラつきがあり、対象内で分析・評価をする ことが可能である」としている。
その一方で、県全域で実施されているのは、事故直後の行動記録を記入して外部被ばく線量を評価する「基本調査」のみ。アウトカムの評価は、人口動態統計や地域がん登録、健診によって実施すると記載されている。更に、5月13日の実施計画には、上記に加え「脳卒中登録等を含め、疾病登録制度の整備が喫緊の課題」とあり、がん以外の疾病でも評価の必要性があることを示唆していた。
なお、5月初旬の作成された実施計画案の目的には、「生体試料の長期保存」が掲げられており、「収集されたすべてのデータは、福島県立医科大が保管・管理する」と強調されている。しかし、国との会議が初めて開催された5月13日の計画書からその文字は消えている。これについて、医大は「記載がなくなった経緯について記録が無く、定かではない部分があるが、「5月1 3日計画書」から組織体制として「情報管理部門」ができ、データ管理が部門として格上げされたことから、医大の中でデータを管理することがより明示されたため、【方法】から削除され たという経緯であったと記憶している。」と回答している。
2011年5月9日の実施計画書
http://www.ourplanet-tv.org/files/kkkproject20110509.pdf
2011年5月12日の実施計画書
http://www.ourplanet-tv.org/files/kkkproject20110512.pdf
2011年5月13日の実施計画書
http://www.ourplanet-tv.org/files/kkkproject20110513.pdf
2011年6月10日の実施計画書
http://www.ourplanet-tv.org/files/kkkproject20110610.pdf
関連動画
「甲状腺検査は過剰診療か」がん増加で激論〜福島健康調査
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1735