小児甲状腺がん
2018/01/25 - 13:18

甲状腺検査の見直し検討本格化〜学校健診打ち切りへ

甲状腺検査評価部会3(検査同意書の見直しなどに関する議論)

福島県の甲状腺検査を議論している「県民健康調査」甲状腺検査評価部会が26日、福島市で開かれ、検査の見直しに向けて具体的な作業が始まった。今後、検査のデメリットをリスト化した上で、同意書の取り方などを見直し、検討委員会に提言するという。「半強制的な受診」となっている学校での検診についても見直される可能性が高い。5月から4巡目の検査がスタートするが、検討のスケジュールに期限は設けないとした。

検査の目的も見直しへ
会議ではまず、前回の評価部会委員会で提案があった事項について議論。現在、甲状腺検査の目的は、「子どもたちの健康を長期に見守る」「現時点での甲状腺の状態を把握するため」との2つが掲げられているが、前回、大阪大学の祖父江委員が「甲状腺にかかる健康影響を最小限にすること」と「放射線と甲状腺がんとの関連を正しく評価すること」にすべきと提言していたが、これについて、同じく大阪大学の高野委員が「「健康影響を最小限にする」という表現では、「健康影響を容認することになる」と指摘、「回避する」と表現すべきではないかと提案した。

これについて祖父江委員は「甲状腺検査をする検査によって利益と不利益がある。利益を大きくすることが目的。」とバランスの問題であることを説明したものの、「不利益についてもう少し踏み込む必要があるのではないか」などとして、さらに次回以降、再検討することとなった。

第8回 甲状腺検査評価部会における提案事項等について
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/250453.pdf


甲状腺検査評価部会1(研究報告など)

この後、2巡目の甲状腺検査結果について説明がなされ、福島県立医大で解析が行われた甲状腺癌の地域別有病割合を示した資料をはじめ、甲状腺検査に関する論文などを紹介。委員から、人年別ではなく、期間別にデータを示すべきだといった意見や超音波画像で1ミリ以下の腫瘍径を分析するだけの精度はないのでないかといって指摘が出された。

甲状腺検査先行検査と本格検査(検査2回目)の実施結果について
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/250455.pdf
地域別にみたB・C判定者、および悪性ないし悪性疑い者の割合について
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/250456.pdf
論文「福島県原子力発電所事故後3年以内に行われた甲状腺検査の検査結果」
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/250457.pdf
論文「原発事故後の超音波検査で発見された若年者の甲状腺がんの成長パターンの解析」
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/250458.pdf
論文「がん進展モデルを用いた小児・青少年甲状腺がん期待数のシミュレーション研究」
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/250459.pdf

がんの症例数をどう把握し、因果関係を突き止めるのか

甲状腺検査評価部会2(症例把握や地域がん登録などの議論)

3年以上、迷走を続けてきた甲状腺がんの多発をめぐる議論。今回の検討委員会でが、全数把握や因果関係を立証するために、どのような解析が必要なのかも議論された。

まず、「経過観察」後に甲状腺がんと診断された患者の症例把握については、福島医大の甲状腺・内分泌センター長の横谷進が新たな研究計画について説明。甲状腺検査の対象になる年齢で、昨年6月30 日までに医大で甲状腺がんの手術を受けた患者について、「悪性または悪性の疑い」または「鑑別困難」(甲状腺癌取り扱い規約第 6 版)と診断された患者を抽出し、算出する計画を解説。次回以降、検討委員会で報告すると報告した。

また県は「地域がん登録」について説明。県外などで診断を受けた患者の把握を含め、正確ながんの症例の全数把握は、「地域がん登録」で実施する方針が示された。これに対し、祖父江委員が、県が使用を許可すれば可能と指摘。また、国立がん研究センターの片野田委員は、住民の移動が多いため、全国のがん登録情報を利用する必要があるとの考え方を示した。これについて、福島医大の安村教授は、速やかに解析できるよう取り組みたいと回答した。

「県民健康調査 甲状腺検査」集計外の甲状腺がんに関する学内の調査について
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/250462.pdf
がん登録情報の利用・提供について
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/250461.pdf
県内市町村の甲状腺検査の実施状況について
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/250464.pdf

この後、祖父江委員より、疫学研究に関する考え方のプレゼンがあり、さらに、片野田委員より、今後の集計方法ついて提案がされた。片野田委員は、検査時年齢(到達年齢)と検査間隔の概念を導入する必要があると指摘。検査区分をより詳細に結果を公表することを要望した。鈴木座長も自ら、「放射線と小児甲状腺がん」と題する報告を提出したが、内容の説明はしなかった。

疫学研究の質と因果関係判断の考え方(祖父江部会員提供資料)
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/250465.pdf
甲状腺検査実施状況報告 集計方法の提案(片野田部会員・祖父江部会員提供資料)
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/250467.pdf
放射線と小児甲状腺がん(鈴木部会員提供資料)
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/250466.pdf



甲状腺検査評価部会3(検査同意書の見直しなどに関する議論)

会議終了間際に、高野委員が医学倫理について発言。「2011年に震災混乱の中でデザインの中されたために仕方ないが、近年、甲状腺がん自然史を覆すような論文が出てきた。結果、医学倫理からはみ出したことが起きている。」と指摘し、検査の見直しを強調した。中でも、対象者に十分な情報を提供していないとして、同意書の内容を見直すよう提言。また「検査は自由意志で行われるべきにも関わらず、学校検査により半ば強制的に行われている。人権問題だ」などと述べた。

これに対し、福島医大の大津留教授や緑川准教授が、学校での検診は、一定の同調圧力があるとし、十分に「検査の不利益」を伝えられていないと説明。緑川准教授は「説明文書を変更することは、福島医科大単独ではできない。検討委員会ではかっていただく必要がある。医大からの提案では変更することが難しい」などの考え方を示し、また神谷研二センター長も、「甲状腺評価部会で議論し、検討委員会にあげていただくのが筋」と検討部会での議論を求めた。さらに安村教授も「倫理的に問題があるなら、ここで議論いただき、指摘いただきたい」と発言した。

次回以降、具体的にどのような問題点があるかを洗い出し、同意書の記載などを書き直す方向でまとめる方向が固まり、高野委員がたたき台を作成することとなった。2011年からスタートした甲状腺検査は今年3月で3巡目の検査を終え、5月から4巡目が始まる。同意書の見直しには一定程度時間がかかるため、検討は期限を区切らずに実施する。この7年間、実施されてきた学校での健診が継続となるのか。検査のあり方をめぐって大きく舵がきられた。

配布資料


記者会見

委員
◎鈴木元(国際医療福祉大学クリニック院長 )日本放射線影響学会 推薦
阿美弘文(大原綜合病院外科主任部長)福島県病院協会推薦
片野田耕太(国立がん研究センターがん対策情報センター がん統計・総合解析研究部部長
加藤良平(山梨大学大学院人体病理学講座教授 )日本病理学会推薦
祖父江友孝( 大阪大学大学院医学系研究科教授)日本疫学会推薦
髙野徹(大阪大学大学院内分泌代謝内科学講師)日本甲状腺学会推薦
南谷幹 史(帝京大学ちば総合医療センター小児科学病院教授 )日本小児内分泌学会推薦
吉田明(神奈川県予防医学協会婦人検診部部長)
日本内分泌外科学会/日本甲状腺外科学会推薦

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