TM-NUCの特設サイトより(C)IARC
国際がん研究機関(IARC)は10月23日、原発事故後の甲状腺検査のあり方を検討する専門グループの検討を開始した。来年4月末までに計6日間の会議を開催し、報告書を完成させる。同報告書は、原発事故後の甲状腺検査を推奨しない見通しで、福島県内で実施されている甲状腺検査に大きく影響すると見られる。
同プロジェクトは、環境省の資金で運営しているもので、放射線疫学、放射線線量測定、病理学、腫瘍学、内分泌学、外科などの専門家16人で構成されている。同10月23日〜25日までの3日間と2018年2月21日〜23日の計6日間、フランスのリヨンで会議を開き、原子力事故後に被ばく影響を受けた集団に対する甲状腺検査のあり方を検討し、指針を策定する予定だ。福島医科大からは甲状腺検査副部門長の志村浩己医師が参加している。
同プロジェクトは、福島県民健康調査の甲状腺検査において、甲状腺がんの有病率が高いことを問題視。「原子力事故による放射線被曝線量は低いと推定されており、甲状腺がんの多発は放射線影響とは考えにくいにも関わらず、甲状腺の多発が福島県の住民に心理的な影響を与えている」と立場を表明しており、報告書では検査のリスクを強調する内容となる見通し。指針は、原発事故に伴い甲状腺検査を実施している福島県への利用を想定しており、福島県の甲状腺検査の縮小につながる可能性が高い。
小中学校での集団検診見直しか
甲状腺検査をめぐっては昨年8月、福島県小児医会が、県内の保護者に不安が広がっているとして、検査の縮小を求める要望書を県に提出。同年12月には、長崎大学の山下俊一副学長ら、笹川財団主催の「第5回放射線と健康についての福島国際専門家会議」メンバーが福島県の内掘知事と面談し、検査の見直しと国際会議の設置を要望した。
この提言を受けた形で、同月27日の「第25回検討委員会」において、星座長が国際的・科学的・中立的な国際会議設置の受け入れを表明。委員の反発により一度は見送りになったものの、今年6月5日に開催された「第27回検討委員会」で、環境省の梅田珠美環境保健部長が、IARCが「甲状腺検査のあり方」について検討を行うと報告。環境省は、同専門家会議に対し、3500万円の資金提供を行っている。
会議を主導しているIARC「環境と放射線部門」の副部門長アスウェル・ケスメニアン博士はICRPの委員で、日本財団主催「第 5 回放射線と健康についての福島国際専門家会議」にも出席。自身が参加しているリスクコミュニケーションのための取り組み「三味線プロジェクト」において今年7月、「甲状腺がんに対する系統的スクリーニングは推奨しない」との報告書をまとめている。
同報告書は、今年8月20日に開催された福島医科大「甲状腺専門委員会診断基準検討部会(山下俊一座長)」で議題にのぼり、資料配付された。資料には、「甲状腺がんの多数は予後が良好で、かつ進行が遅いことから、スクリーニングは患者に利益をもたらすことはほとんどなく、人々に相当程度の懸念や不安と同時に不必要な治療による悪影響(大半が手術や生涯にわたる薬物療法)をもたらす」との記載があり、さらに「甲状腺がんに対するスクリーニングは、個人の自由意思に基づいて、推奨されるべきである」と提言している。甲状腺検査に特化した国際会議の開催や検査の見直しは、昨年12月の山下氏らが福島県の内堀知事に提出した提言の内容と一致しており、IARCの報告書をテコに、来春開始される4巡目の甲状腺検査において、最も受診率が高い小中学校での集団検診等を見なおす可能性もあるが、山下氏はOurPlanetTVの取材に対し、「それはない」と否定した。
山下俊一氏が座長を務める「甲状腺専門委員会診断基準検討部会」は、山下氏が検討委員会の座長を退任した2014年4月以降、事実上、甲状腺検査の方針を固める場となっているが、会議は非公開で委員も公開されていない。
国際がん研究機関 甲状腺検査特設サイト
http://tmnuc.iarc.fr/en/
三味線プロジェクト
「放射線事故への備えと、その影響を受けた 人々の健康調査に関する勧告及び施策」
http://www.crealradiation.com/index.php/jp/shamisen-news/recom-tab
診断基準検討部会の資料
https://www.i-repository.net/il/cont/01/G0000338fmu/000/351/000351077.pd…