水俣病の症状があるにも関わらず、患者と認められなかったのは不当だとして、男女9人が患者と認めるよう市を訴えていた裁判で29日、二審の東京高等裁判所は全員を水俣病と認めるよう命じる判決を言い渡した。一審の新潟地方裁判所は、9人のうち7人の訴えを認め、双方が控訴していた。
水俣病の認定は、「公害健康被害補償法(公健法)」に基づき、自治体が患者認定を行う。国が1977年に通知した基準によって認定の幅が狭まり、感覚障害の他にも何らかの症状がない患者は全て申請を棄却されるようになっていた。これに対し判決では、「医学的見地に照らし、水俣病の可能性が50%以上なら水俣病と認定する」とした、公健法前に施行されていた「水俣病被害者救済法」の趣旨を受け継ぐべきと指摘。さらに原告が訴えている感覚障害について、メチル水銀へ対する暴露が疫学的に認定でき、他の原因を疑わせる事情がない場合は、メチル水銀が影響した可能性が高いとの判断を示した。
判決後の会見で、高島章弁護士は、「弁護士になってから26〜7年間。弁護士になる前から新潟水俣病に関わってきた。いつ終わるんだろうとずっとやってきた中で、これが最後ではないが、裁判所に対して立派な判決を出してくれた。認定制度が50年基準でハードルが高くなった。この認定基準がなければ、政策や政治によって、科学的な水俣病不当な線引きがなくなった。」と目を潤ませた。
また新潟水俣訴訟を支援する会の事務局長・萩野直路さんは、「これまで国は、疫学の問題は全体には適用できるが、個人には適用できないと主張してきたが、今回、個人にも適用できると判断した画期的な内容。熊本の行政訴訟やノーモア水俣訴訟を含め、今後の水俣訴訟に大きな影響を与える判決。根本的解決に向けたターニングポイントとなると思う」と声をはずませた。
原告の一人は、「いい判決だと思います」と述べ、これまで国が家族に認定者がいることなどを条件にしてきたことに関し、「家族に認定者がいるとか、漁協の組合員であるとか、そういうことに拘ってきたのはおかしい。昔は川でとれた魚というのはよく食べた。親が漁師じゃなくても、自転車に魚をつけて、売ってるおばさんがいた。水俣病が問題になってから、そのおばさんを見かけなくなったのを覚えてます。」と言葉を噛み締めた。
感覚障害の原因が疫学的に、メチル水銀の暴露によると評価される場合は、患者認定すべきとする今回の判決について、原告側の証人として法廷にたった岡山大学の津田敏秀教授は、「水俣病においてはこれまで、通常の中毒症なら認められるはずの患者としての診断が、医学的・行政的・法的な面で全く認められてこなかったが、ようやく認められた。従来は何の根拠もなく、別の理由によって否定されてきたが、これからは科学的根拠に基づいて判断をすべき」と判決を歓迎した。
支援者の会の事務局長・荻野直路さんは、裁判所が津田教授の主張を全面的に認めたことについて、福島原発事故に伴う健康影響にも何らかの影響があるのではないかと指摘した。